半ば泣きつくような形で、幾嶋は上赤に助けを求めた。これまでも投資家へのピッチや、ライセンス獲得のための出版社とのミーティングに同席してきたということも手伝い「これだけコンバージョンが取れているのであれば」と、上赤はabceedの可能性を信じて正式に入社することを決めたという。
その後、2〜3カ月ほどで有料版を2018年に再リリース。結果は大成功だった。TOEICの単語帳「金のフレーズ」を単品課金として販売すると、それだけで月100万円以上を売り上げ、これを10冊、20冊と増やしていき、事業を成長させていく方向性がみえた。
「2人が食べていけるくらいの売り上げが立ちました。手取り15万円ほどで、ソフトバンクの時と比べたら3分の1くらいですが(笑)、会社が潰れる心配はひとまずなくなり、とても安心したことを覚えています」
その後Globeeは成長軌道に乗った。2020年5月に三省堂と提携し、2021年4月からは全国の中学・高校へ展開を開始。初年度導入校の継続率は100%と高い満足度を得ており、今年で4年目を迎える。
2022年5月に5万人だった有料会員は2023年2月に6.5万人に増加し、同年3月には、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが配給を行う映画やドラマを活用した英語学習機能をリリースした。
ターニングポイント3 リタリコ創業者から資金調達に対する考え方を学ぶ
幾嶋は、「限られた資本でPDCAを回せるような会社運営」を大切にしている。これは、エンジェル出資を受けていたリタリコ(障害者向け就労支援)の創業者である佐藤崇弘氏の影響が大きいという。幾嶋は佐藤から、資金調達について「融資を受けられるのであれば、その方が絶対に良い。『融資を受けられないから株式を売ってお金に換えよう』という意識を持ってはいけない」と教わった。
「融資って返さなきゃいけないお金だから、使い方を慎重に考えるんです。佐藤さんのアドバイスのおかげで、ケチ臭く考える癖がつきましたね。『この投資は、本当に採算が合っているのか?』と」
実際にabceedがVCから調達したのは約5300万円と、他のスタートアップと比べるとかなり少ない。そして広告費はほとんどかけずに約300万人のユーザー数を獲得してきた。
「『珍しいね』と言われることも多いですが、本来、事業が爆発的に成長するのはプロダクトマーケットフィットを達成してからです。それまでの間は、数々のトライアンドエラーを繰り返すことになります。
売上とほぼ同じ額を広告などに使うケースも見られますが、成功させたいのであれば、そのようなやり方は健全じゃない。本質的な価値を提供できないと、持続的にに成長していくことはできないと考えています」