(左から)なかのかな、伊藤雄一教授
「グラスを割ってしまったとき、傘が折れてしまったとき、不要になった家財道具が捨てられていくときに感じる罪悪感と向き合い、世界でも話題になっている“金継ぎ”に結びつきました」
そんななかで伊藤教授に出会い、「痒み止めデバイス」を体験した。狭い範囲の肌に、温かい感覚と冷たい感覚を同時に与えると、それを錯覚して「痛み」として感じるというデバイスだ。痒みは痛点なので、元々痒かったところと別の場所に痛みを発生させることで、元々の痒みがおさまるという技術だ。
この体験から、金継ぎに“温冷感”の技術をかけ合わせた作品を構想し「TSU→GI CUP “TEMP"」が誕生した。制作には伊藤教授ほか、大阪ヒートクール代表取締役で大阪大学工学研究科の伊庭野建造助教も協力した。
そのほか、ティーカップに振動するパーツを継いだ「TSU→GI CUP “VIBE"」や、ウイスキーグラスに角度を計測するジャイロセンサを継ぎ、光で“飲みすぎ”を教えてくれる「TSU→GI CUP」など計6点を制作した。
「TSU→GI CUP “VIBE"」
「残念ながら振動と食体験に関する実験はまだできていないのですが、超音波を使った研究はしています。超音波で液体のテクスチャーをコントロールできないかという研究で、ザラザラさせたり泡を発生させたりして、口当たりをまろやかにすることもできると考えています」(伊藤)
“今あるものを新しくする”という意識
これらの作品が展示されている「アップサイクルの可能性展UP-CYCLING POSSIBILITY」では、鑑賞者に“今あるものを新しくする”という意識を広める狙いがある。「私はこのプロジェクトを進めるうちにその意識が高まって、子どもが“傘が壊れた〜!”と家に帰ってきたら、ニヤニヤしながらどうアップサイクルしようか?と考えてしまうようになりました」というなかのは、金継ぎの作品以外にも、光る傘「TSU→GI Umbrella “GLOW”」を出展している。
これは、実際に壊れた傘をつかい、折れてしまった骨の部分をLED ライトの棒に替えて、夜道でも安全な傘にアップデートしたものだ。
「アップサイクルの可能性展」は、横浜の資生堂グローバルイノベーションセンター内「S/PARK Museum」にて、6月3日まで開催中
こうした柔軟な発想があれば、日常生活のなかでアップサイクルができるものは以外とたくさんあるはず。展示会場にはアップサイクルのアイデアを出すためのカードゲームもあり、楽しみながら価値観のアップデートができそうだ。