日本政府観光局とも事業を展開
しかし、意外に早く転機は訪れた。陽気な国民性のメキシコでは、2020年9月頃から食事をしながらの集いが復活しはじめたのだ。日本ではいまだ飲食店は時短営業を強いられ、酒の提供が禁止されていた頃だ。「コロナが猛威を奮っていた最中でしたので、まだ時期尚早ではないかとためらいはありましたが、政府の規制と周辺の店の動きを見ながら営業を再開しました。ある日、ジェトロ(日本貿易振興機構)のメキシコ事務所の事業で、インフルエンサーが来店したのをきっかけに、急激にお客さんの出足が回復しました」
すると、今度は日系の総合建設会社が経営するホテル「FUJITAYA」から声がかかった。ホテルに併設した日本食のレストランにコンサルティングの立場で関わってほしいという話だった。
このホテルは、日本からの出張者やメキシコ在住の日本人がまるで日本にいるかのように安心で快適に過ごせるということをコンセプトにしていた。そのため、本物の日本料理を提供していた西側に白羽の矢が立ったのだ。
やがて、そのレストランの運営まで正式に任されるようになった。海外だと韓国の人や中国の人が日本料理を提供している店も多いが、彼は日本人の料理人がつくることにこだわった。シェフだけでなくパティシエも日本人が腕を奮っているという。
次に舞い込んできた仕事は、日本政府観光局(JNTO)からだった。
コロナ禍前にはメキシコから日本への旅行者は右肩上がりに増えていた。そこで、JNTOはポストコロナを見据えて、2021年に現地に事務所を開設。メキシコの人たちに日本の魅力を伝えて、日本への観光客の増加させるためのYouTube広告やソーシャルメディアの運用といったことを開始していたのだ。それにはメキシコで飲食店などを展開していた西側が適任と判断されたようだ。
西側は、メキシコだけでなくコロンビアやアルゼンチンでも事業を拡大させている。今年2月には、コロンビアの首都ボゴタで日本文化の発信事業を現地の日本大使館とJNTOとともに実現。彼は現地で日本食レストランを出店させる計画も進めている。
現在は3つの飲食店を運営しながら、マーケティングやPRの事業も順調で、3年前には想像できなかった姿にいちばん驚いているのは彼自身だという。
約80人にまで増えた従業員たちの大半は現地の人たち。彼らや彼女らは日本への渡航に興味を持っていて、日本文化に興味津々だという。西側が最初にメキシコに行こうとしたときのパッションに近い。そんな情熱をもとに、次は日本で、中南米の文化の紹介やメキシコなどからの旅行者向けのサービスの展開も模索している。
「ラテンアメリカと日本の新しい歴史をつくりたい」と語る西側だが、その発言からは、まだまだ満足できていない様子もうかがえる。西側の挑戦についてはいつかまたレポートしたい。