ビジネスと技術の融合に注力
創業以来、特に力を入れてきたのは、チームの強化だ。技術側は小西を筆頭に、量子科学技術研究開発機構でプラズマ加熱技術の開発研究に長年携わる坂本慶司など、大学教授に相当する人材が7~8人在籍し、30人余りのエンジニアチームを率いる。ビジネス側にも、商社やコンサルなどでグローバルビジネスに携わっていた人材が数多く参画し、ビジネスと技術の融合を図っている。核融合の産業自体はいまだ商業化していないが、実験にも装置は必要とされるため、すでに京都フュージョニアリングのビジネスは成立している。
欧米の核融合スタートアップや国の研究機関からすでに引く手あまたであることに加え、主力製品のブランケットは数年で交換が必要になる消耗品。一度納入した後も付き合いは継続していくというビジネスモデルだ。
提供するのは、かたちのあるものばかりではない。
英UKAEAが手がける核融合実験炉建設プロジェクトでは、エンジニアリング・デザイン・パートナーとして、設備の設計案の作成や、その後の建設にも携わる。これには、過去に大学の研究機関で小規模な設備を建設した経験が生きる。その経験もまた、ほかの核融合スタートアップにはあまりないものだ。
さらに、京都フュージョニアリング独自の研究開発の取り組みとして、核融合の発電模擬実証装置「UNITY」の建設も24年の完成を目標に進めている。核融合炉からエネルギーを取り出して発電するプロセスを実証するもので、世界初となる。
現在、事業は順調に拡大し、21年にはUKAEAのプロジェクト参画に伴ってイギリスに子会社を設立。続いて、今年2月には米国の子会社も本格稼働を開始し、海外での地盤を固める。「人口が減っていく日本で、国内に向いてばかりいても生き残っていけない。米国への進出は、マーケットサイズの大きな海外で戦うという挑戦の足がかりです」。
核融合の一刻も早い実現は、全世界の悲願だ。
長尾は、「京都フュージョニアリングがいたから、核融合の実現が15年早くなったと言われるような存在になりたい」と熱を込める。核融合から得られる熱は、発電だけでなく、水素生成やCO2の固定、海水の淡水化や宇宙ロケットエンジンの強化にも役立つ。
「人類が抱えてきたいろいろな問題を解決するポテンシャルが、核融合にはあります。核融合の電力以外への応用には時間がかかるので、少なくとも僕の世代では、日本のエネルギー問題を根本解決し、次の世代にバトンタッチしていきたい」。
ながお・たか◎アーサー・ディ・リトル・ジャパンにて、新規事業などの戦略コンサルティングに従事した後、エネルギースタートアップのエナリスで東証マザーズ上場、資本業務提携、AIを活用したR&Dなどを主導。2019年に京都フュージョニアリングを共同創業。京都大学協力研究員。京都大学 修士(機械理工学)。