「ポータブル原子力発電機」で世界を変える元スペースX社員

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ここ数年、山火事やハリケーンなどの自然災害の影響で電力システムがダウンし、カリフォルニア州ではバックアップ電源としてのディーゼル発電機の利用が急増した。しかし、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、ディーゼル排気ガスが確実にがんを引き起こすと結論づけている。

「仮に1000世帯分の電力を賄う1メガワットのディーゼル発電機を稼働させれば、統計的に有意ながん発生率の増加が引き起こされることは確実だ」とRadiant Industries(ラディアント・インダストリーズ)のCEOのダグ・ベルナウアー(Doug Bernauer)は語る。

彼の会社の目標は、ディーゼル発電機のような大気汚染とは無縁で、輸送用コンテナに格納して持ち運び可能な「ポータブル原子力発電機」を作ることだ。「ここ数年で原子力に対する人々の考え方は、変わりつつある。原子力エネルギーが作り出す新たな未来像が見えてきた」と現在41歳のベルナウアーは語る。

ラディアント社は4月24日、アンドリーセン・ホロウィッツが主導したシリーズBラウンドで4000万ドル(約54億円)を調達し、累計調達額が5500万ドルに達したと発表した。同社のゴールは、2028年にこの発電機の商業製造を開始することだ。

ラディアント社の発電機の心臓部には「TRISO粒子」と呼ばれる核燃料が使われている。ケシの実ほどの大きさのこの粒子は、ウランや酸素、炭素で構成され、セラミックと炭素材料で覆われている。TRISO粒子の大きな特長は、融点が非常に高いことで、この燃料を使用した原子炉は理論上メルトダウンしないとされる。

ミシガン大学で原子力工学を専門とするトッド・アレン教授は、TRISO粒子燃料を用いるマイクロリアクターのリスクが、米国の数十の大学のキャンパスにある研究用の小型原子炉と同程度だとフォーブスの取材に説明した。「このタイプの原子炉は放射性物質が少なく、システムが複雑でないため、故障が起こりにくい。従来の大型軽水炉よりもはるかに安全だ」

アルゴンヌ国立研究所の原子力技術者で、ラディアント社の原子炉開発に携わるエイプリル・ノバック(April Novak)は、この原子炉が小型で移動可能であるため、非常時のバックアップ電源として、また電気自動車(EV)用の電源として高速道路沿いに設置するなど、さまざまな用途に適していると述べている。
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編集=上田裕資

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