ディープテックを後押しする3要素
上向き調子にある日本のディープテック。今後はさらに傾斜がつく公算が大きい。ファストトラックイニシアティブの安西智宏は、「これからは、ディープテックがインパクト投資として扱われるかが重要なテーマになる」と指摘する。未来から逆算した長期目線で社会課題の解決策を提示するバックキャスティング的な発想は、インパクト投資と志向性が合致するという。「金融的なリターンだけでなく、社会的なインパクトで事業性を評価してもらえる環境ができれば、よりディープテック企業は活動しやすくなる」。また、国の支援体制は確実に手厚くなる。22年11月に策定された「スタートアップ育成5か年計画」では、5年間で5000件以上の大学発の研究成果の事業化を支援する方針などが明文化されている。同12月には、官民ファンドのJICベンチャー・グロース・インベストメンツがディープテックを主な対象とした2000億円の2号ファンドを設立した。
もうひとつの見逃せない観点は、世界経済の流れの変化だ。10年代のスタートアップ界をけん引してきたIT産業は成熟期に入りつつあり、経済減速が懸念される米国ではGAFAMの成長率が軒並み鈍化、大型のレイオフも行われている。メガITへ富が集中してきた世界経済の構造転換点を迎えたという見方も出てきた。
ジャフコ グループ パートナーの北澤知丈は、「アプリケーション側のビジネスモデルが重要なタームもあれば、インフラ側が重要なタームもある。ソフトウェアなどのアプリケーション側に新しいものが出づらくなったいま、インフラ側であるディープテックに革新性が求められている」と説明。クロスボーダーで投資活動を行うユニバーサル マテリアルズ インキュベーター代表取締役パートナーの木場祥介も、「米国では、ディープテックがブームになりつつあり、ITへの投資で著名な投資家が、特にハードウェア領域に向いてきている。明らかに、この2~3年で雰囲気が変わった」と話す。
では、ポストGAFAM時代を担う主役として、グローバルに飛躍し、世界に大きなインパクトを与えるディープテックになるための必須要件とは何か。JICベンチャー・グロース・インベストメンツ代表取締役社長CEOの鑓水英樹は以下のようにまとめる。「答えはシンプルで、キーワードはオリジナリティ。唯一無二の技術やサービスがあって、そこに人・モノ・金が揃えば、グローバルに広げていける。そして日本には、その技術シーズがたくさんある。可能性は大いにあるんです」。