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2023.05.27

90年後の今届く超新星、宮沢賢治の光。「米国人をやめた」作家の献身と考察

筆者、宮沢賢治の銅像とともに(岩手県盛岡市材木町)

賢治は「21世紀の作家」だった

しかし、おそらく現代における最も衝撃的かつ重要な問題、すなわち、有機物、無機物問わず、両方の領域における人間について語る時にこそ、賢治は真に革新的だった。彼はすべての物語と詩の中で、人間が地球を支配してはならないこと、人間は他の生物より優れているわけではないこと、そして環境を貴重な生きた事物として扱い、その自然な状態を保護する営みに人間の運命が密接に結びついていること、それらを知るべきだと教えてくれる。19世紀に生まれた宮沢賢治は、間違いなく21世紀の作家だったのだ。

賢治は1923年9月、五間森に樹木の伐採に行ったときの様子を「風景とオルゴール」という美しい詩で表現している。森といっても、花巻の北西14キロのところにある標高566メートルの小山である。賢治は、樹木もしかり、自然から何かを奪うとき、その代償があることを知っている。彼はこの詩の最後に、えもいわれぬ叙情的な表現でこう書いている──「しずまれしずまれ五間森…木をきられてもしずまるのだ」。

彼はこの詩で、自然が自分に復讐してこないよう懇願している。言い換えれば、彼は私たちが自然を「食い物」にしてはいけないと信じていたのだ。人間は生きとし生けるものの主(あるじ)などではなく、自然からの再生なきエネルギー奪取はすなわち、われわれ人間を破滅に導くだけ、と。

1933年9月21日午後1時30分、宮沢賢治はこの世を去った。まるで、その死の瞬間に爆発した超新星のような人だった。

宮沢賢治という名の超新星の光は、今ようやく、われわれの元に届いているのかもしれない。
 
(写真=photo llibrary)

(写真=photo llibrary)



ロジャー・パルバース(Roger Pulvers)◎1944年アメリカ・ニューヨーク市生まれ。東京工業大学名誉教授。カリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)卒業後、ハーバード大学大学院で修士号取得。67年来日。京都産業大学、オーストラリア国立大学で教鞭をとる。82年『戦場のメリークリスマス』助監督を務めたのを機に再来日。『STAR SAND―星砂物語』で初監督を務める。第18回宮沢賢治賞、第19回野間文芸翻訳賞受賞、第9回井上靖賞受賞。2018年旭日中綬章受章。著書に『賢治から、あなたへ 世界のすべてはつながっている』『もし、日本という国がなかったら』『ぼくがアメリカ人をやめたワケ』など。最新刊に「宮沢賢治原文英訳シリーズ」として「『銀河鉄道の夜』を英語で読む」がある(「『セロ弾きのゴーシュ』『注文の多いレストラン』を英語で読む』「『風の又三郎』を英語で読む」も近日刊行予定(すべてコスモピア刊))。

文=ロジャー・パルバース(Roger Pulvers)/訳=石井節子

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