“劇薬”な存在でも受け入れられた理由は
——若い世代の「悩み」は、今の日本の音楽業界全体の課題でもあると思います。具体的にはどのようなことでしょうか。まず一つは、出口の少なさです。「そのアーティスト/アイドルはこういう人だから、こういう出口があると良いよね」という考え方ではなく、カラーやコンセプトが決まった出口がいくつか用意されていて、そこにハマらない子は輝けない、というのが常態化しています。
もう一つは、音楽業界のビジネス形態が約30年前の“CDバブル”の仕組みのまま変わっていないことです。その時に出来上がった組織やスキームのまま、大企業病のように身動きがとれなくなってしまっている。MV(ミュージックビデオ)の制作も、CDが売れなくなった今でもなおCDの売上枚数を元に予算を立てなくてはいけないことも多いです。
その結果、インターネットやSNSの登場による世界的な方向転換に日本はついていけず、ストリーミングサービスの導入も遅れてしまいました。
アメリカのビリー・アイリッシュは13歳だった2015年に、自宅のベッドルームから自作の曲を世界中に配信して巨大なヒットにつなげましたが、そんなSNSを介したムーブメントも、世界に比べると日本は遅れています。つまり、若い才能も育ちにくい状況に陥っています。
——「CD偏重のビジネスモデルからの脱却」は、かねてから指摘していますね。
アイドルの握手会など、CDを売るための施策のすべてが悪いわけではありません。ファンに直接感謝を伝えられるといったポジティブな面もたくさんあったはずですが、それが当たり前に行われるものになると、アイドルは疲弊してしまい歌やダンスの練習に割く時間も削られてしまう。
ファンの観点からしても、多様なジャケットや特典を揃える事自体は収集欲の満足にも繋がりますし、肯定的に捉えています。ですが、”支えるため”と段ボール何箱も開けないCDを積み上げて廃棄してしまうのは、SDGs観点からも難しい問題です。お互いに不幸が生まれやすくなっていると思います。
それは、CDを買う人のせいでも売る人のせいでもなくて、システムの問題。音楽ビジネスが肥大化したが故の、現代に残ってしまった負の遺産であると感じています。
特に、不必要なストレスがアーティストやアイドルにかかりやすいシステムになってしまっていて「売れるならこれくらい我慢しなきゃ」「会社の人が言っているから従わなきゃ」と苦しみながら活動をすることが普通になっている気がします。この15年間で、心から楽しんでアイドル活動をやっている方は少なくとも自分の周りでは見なかったですしね。
組織が死に体のときは、外の血を入れるしかない。業界関係者全体に問題意識が通底していたこともあって、自分のような新規参入で、かつ“劇薬”のような存在でも好意的に受け入れられているのかもしれません。
今月末から東京(27〜28日)、大阪(6月17〜18日)の日程で、ツアー『SKY-HI ARENA TOUR 2023 ーBOSSDOMー』も控えるSKY-HI