2023.04.26 14:30

「そしてオリエント急行もなくなった」ブレグジットの余波は英鉄道旅にも

イスタンブールからベニスに向かう途中、ブルガリアの国境で停車したベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス(Hristo Rusev/NurPhoto via Getty Images)

イスタンブールからベニスに向かう途中、ブルガリアの国境で停車したベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス(Hristo Rusev/NurPhoto via Getty Images)

欧州の豪華列車の代名詞で、英国のミステリー作家アガサ・クリスティの作品でも有名な「オリエント急行」が、来年春に英イングランドとの接続を失うことになった。英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)により、英国からフランスへの国境通過に時間がかかりすぎるようになったことが理由だ。

現代版のオリエント急行は「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス(VSOE)」として40年あまり前から運行されてきた。発着地は最も北がロンドン、最も南がイスタンブールとなっている。だが、運行する英ベルモンド社は、ロンドンと、ドーバー海峡の港町で英仏海峡トンネルの入り口があるフォークストンを結ぶ区間について、2024年3月をもって運行を打ち切ると発表した。英仏海峡の通過が大幅に遅延するようになり、英国の区間を残すのは難しいと判断したという。

「今回の措置は、旅程が乱れるリスクを最小限にとどめ、引き続きお客さまに最高のサービスを提供していくためにとられたものです」とベルモンドの広報担当者アレクサ・ウィザーズは説明している。来年以降、パリ発着の運行に切り替えるのにともない、英国からの客には、代わりに高速鉄道ユーロスターのチケットを提供することになるという(編集部注:旅行代理店のツアーではすでに英仏間の移動をユーロスターに切り替えているものがある)。

ウィザーズは「将来的にはロンドン─フォークストン区間で当社のブリティッシュ・プルマン(英国側で使われている列車)の運行を再開できればと考えています」とも述べており、停止は一時的な措置になる可能性もある。

旅行代理店インターナショナル・レイルウェイ・トラベラーズのレイチェル・ハーディー副社長(販売・マーケティング担当)は「ブリティッシュ・プルマンは長年、VSOEでの夜通しの旅の「前菜」としてぴったりのものでした。英国区間がカットされてしまうのは残念なことですが、乗客のために遅延を避けるにはやむを得ない決断だったのでしょう」と話す。

待ち時間12時間以上

BBCの4月の報道によると、ドーバーではフェリーでフランスへ渡航するバスの乗客は12時間以上待たされることが少なくないという。ブレグジット以前は、オリエント急行の乗客は長い時間のかかるパスポートチェックを受けずに、英仏間の国境を越えることができていた。

欧州連合(EU)は現在、生体認証を用いた新たな出入国管理システム(EES)の導入準備を進めている。出入国した時間や場所のほか、旅行者の氏名、旅行文書の種類、生体データ(指紋と顔画像)を自動で登録するシステムで、稼働が始まれば国境通過に要する時間は短縮されるとみられている。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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