ここでは、国際的な最も大きな課題となっている環境問題について、先導する主役である金融業界の「潮流」について、長年、環境金融の領域で企業と金融機関の動向を追ってきた環境金融研究機構の藤井良宏に聞いた。
2017年以降、国内企業のグリーンボンド発行件数は伸びており、20年には発行総額が1兆円を超えた。さらに政府が推進しているのが、トランジションファイナンスだ。脱炭素社会の実現に向けて、グリーン事業への取り組みや燃料転換など、「移行(トランジション)」にともなうファイナンスである。4要素(戦略とガバナンス、マテリアリティ、科学的根拠、透明性)を満たさなければならず、現在、航空、船舶、運輸、インフラの大手がモデル事例に選定されている。しかし、わが国のサステナブルファイナンスの草分け的存在である環境金融研究機構代表理事の藤井良広がこんな話をする。
「トランジションボンドは、ある意味、魅力がある。現在、『ブラウン(CO2排出量の多い)とみなされる企業』を『グリーン化』することで、ESG的にも収益的にも大きなリターンが見込めるからです。ただ、OECDによるレビューに日本の企業が入っていない。理由は円建てだけだからです。経産省が支援しているから安心なのか、国内投資家向けになっていて、本来は、ドル建てかユーロ建てにしてグローバルな投資需要に合わせるべき。世界水準のトランジション戦略を立てられた企業こそが先頭に立てるのです」
日本企業では、トヨタ自動車やNTTが外債と円債でサステナブルボンドをしていることで知られている。
「日本政府だけがG7のなかで別立ての緩い基準で行っています。むしろ逆に日本がグローバルの頂点に立つべく、ルールメーカーになるべき。投資家にリターンが大きいことと社会貢献を両立できることを示すには、グローバルに共通するトランジションのルールをつくることが必要でしょうね」
ふじい・よしひろ◎1949年、兵庫県神戸市生まれ。日本経済新聞社に入社後、欧州ロンドン駐在記者、経済部編集委員を歴任。2014年に環境金融研究機構を設立。専門は環境金融。