戦死から80年、米国にある山本五十六の魂が宿る場所

山本五十六(Photo by ullstein bild/ullstein bild via Getty Images)

そんな米軍も最近は、「空母不要論」を唱える声が徐々に強くなっている。コストがかかるうえ、中国による対艦ミサイルの脅威が高まっているからだ。米海軍は2015年頃から、分散型海上作戦(DMO)という構想を掲げ始めた。DMO は、地対艦ミサイルなどの攻撃を避けるため、多数の小型艦や無人艦などに長距離ミサイル等を搭載し、分散して相手の水上艦艇や地対艦ミサイルなどの攻撃を避けつつ行動させるとともに、情報衛星やドローン(無人航空機)、早期警戒機などを使ってネットワーク化することで、分散していても一体となった攻撃力として運用する。自衛隊の元幹部は「空母は、海軍の力の象徴だ。保有したいというあこがれを持つ国が多いなか、米国の常に進化しようとする姿勢を学ぶ必要がある」と語る。

一方、「半年や1年は暴れてご覧にいれる」と語った山本五十六も、米側が「皮肉だ」と指摘した通り、最後は開戦に抗えなかった。日本には当時、「緒戦で米軍を叩けば、米国が戦意を喪失して早期講和に応じてくる」「ナチスドイツがソ連に勝利すれば、米国は戦えない」といった楽観論があったとされる。総力戦になることはわかっていたのに、日本は米本土空爆など、相手を屈服させることができる作戦を何も持たないまま、戦争に突入した。

米国の関係者は、当時の日本のこうした楽観論について「確かに欧州戦線に力を注がなければいけない状況もあったし、国内に戦争反対の世論もあった。でも、有事になれば、米国民が団結し、産業をフル稼働させるという見通しを持てなかった。米国を見誤ったと言うしかない」と指摘する。

いくら素晴らしい戦術を見いだしても、戦略を誤れば元も子もない。日本も昨年、国家安全保障戦略など戦略三文書を決定し、反撃能力の保有にも踏み切った。日米一体化も進めている。紛争を起こさせないためには、日米一体化は意味がある。相手が「紛争を起こせば、手痛い目に遭う」と予測することで、紛争を起こす意欲を抑止できるからだ。ただ、同時に相手は「日本と米国は一体だ。米国と交戦したら日本とも当然、戦闘状態に入る」と覚悟することになる。台湾有事の際、日本が「中国と戦争をする気はありません。米国に武器弾薬を支援するだけです」と言っても、中国はそうは見てくれないだろう。

山本五十六が存命していたら、今の日本の状況についてどう語るだろうか。

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文=牧野愛博

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