父から子へ、20年かけて挑む究極の循環型ビジネス

ASTRA FOOD PLAN代表の加納千裕氏と父であり相談役の加納勉氏

過熱蒸煎機は風味の劣化と酸化、栄養価の減少を抑えながら、食品の乾燥と殺菌を同時に行うことができる装置。例えば野菜の芯や皮、ヘタなど捨てられるはずだった食材をパウダー状にすることで、食べることのできる新しい価値として生まれ変わらせる。
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乾燥技術ではフリーズドライが有名だが、装置が高額で乾燥に時間が掛かるためランニングコストも高い。過熱蒸煎機はスピード殺菌乾燥が可能なため、低コストで高い生産性を実現している。

加納氏の父が開発したのは、過熱蒸煎機の前身となる過熱水蒸気オーブンだったのだが、当時はまだエネルギーコストが高すぎて普及せず、循環型のビジネスモデルも注目されることがなく、会社は泣かず飛ばずの状態だった。

「ちょっと時代が早すぎたんでしょうね。今でこそサステナビリティが広く知れ渡り、フードロスの取り組みも増えていますが、当時はそのような機運がまったくありませんでした。父が高齢となりいよいよ引退するとなった際、過熱水蒸気を利用した調理器の開発を諦める話も出ました。でも、私は父が信念を持ってやり続けてきたことを誇りに思っていましたし、SDGsが一般化した時代背景も追い風だと考え、2020年にASTRA FOOD PLANを立ち上げました」
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加納氏の読みは当たり、新しく開発した過熱蒸煎機を軸としたビジネスは、フードテックグランプリにて「日本ハム賞」「リアルテックファンド賞」、SAITAMA SMILE WOMEN ピッチ2022最優秀賞、ソニー主催のビジネスコンテスト「Startup Switch」エステー賞、埼玉県産業振興公社主催ビジネスコンテスト「彩の国ベンチャーマーケット」埼玉県知事賞(最優秀賞)を受賞するなど、一気に脚光を浴びるようになった。

吉野家の玉ねぎの端材をパンに

2023年の3月には、吉野家とポンパドウルの取り組みが始まり、より多くの人々にASTRA FOOD PLANのフードパウダーを楽しんでもらえるきっかけも得た。

このプロジェクトは𠮷野家のセントラルキッチンで発生する牛丼用玉ねぎの端材を過熱蒸煎機で粉末化し、それをポンパドウルのパン生地に練り込んで新商品を開発するというものだ。

「玉ねぎの成分には殺菌性があるので、飼料として活用できないんです。また玉ねぎの端材は、牛丼の規格に合わないだけで、本来美味しく食べられる部分も多いので、𠮷野家さんではかねてより有効利用を模索していました。過熱蒸煎機でパウダーにしてアップサイクルできれば、新たな可能性が広がるのではと考えました」と加納氏。

一方、ポンパドウルも玉ねぎのパウダーの香りが驚くほど良いということで、4種のオニオンブレッドを発売。お客さまからも美味しいと好評で、定番商品として継続的に販売することになった。昨今の健康ブームも相まって、野菜を栄養価の高い状態でパンと一緒に食べられることや、他社と一緒になって社会課題の解決に取り組めることでも好感を得られた。

ポンパドールでは「おいしくって 地球にやさしい」SDGsの玉ねぎパンとして打ち出された。

ポンパドールでは「おいしくって 地球にやさしい」SDGsの玉ねぎパンとして打ち出された。


このように単に過熱蒸煎機を販売するだけではなく、フードパウダーをASTRA FOOD PLANが買い取り、それを新しい価値として他社に販売するというのが、同社の基本となるビジネスモデルだ。

「かくれフードロスの問題は、弊社だけでは到底解決することはできません。でも複数社が繋がることで可能になるんです。装置販売と用途開発を並行して進めることで、既存のサプライチェーンの形を壊さず、業界全体としてかくれフードロス問題を解決し、持続可能な仕組みを作り上げます」
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