ハンター歴40年、ミシュラン凄腕シェフが考える森との共生

パリのレストラン「ロワゾーブラン」のデビッド・ビゼ氏

──幼い頃から森に入り、狩猟をしながら、その生態系を見てこられたそうですね。
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狩猟は我が家では代々行ってきたもので、5歳くらいの時に、すでに父の傍で狩りの様子を見ていました。幼心に、一方的に何かを受け取るというよりも、人間と森が、お互いに敬意を持って対話しているようだと感じたことを覚えています。そんな時代を含めると、もう40年ほど森の変化を観察してきたことになります。

最近狩りに出て気づくのは、先ほどお伝えしたように、小動物が減少しているということ。これらの小動物は地面に大きな穴を開けるほどの力はないので、水たまりの上を飛ぶ小さな昆虫を食べるのです。そのため、水が不足する春に雨が降らないと餌を食べることができずに死んでしまう。これは、気候変動の悪影響の一例です。

とはいえ、環境を守るというのは、ただ単に狩猟をしないという意味ではありません。実は、ノロジカ、イノシシ、シカなどの大物は大幅に増えていて、環境に損害を与えています。
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私たちは、人間が常に環境を破壊する最も大きな要素だと考えてきましたが、場合によってはそれよりも、これらの大型動物が自然を荒廃させている場合もあります。こういった場合は、むしろ狩猟をする必要がある。ハンターがすべきことは、自然の状況を把握し、種の個体数を再構築することなのです。

──再構築ということは、狩猟して減らすだけでなく、増やすための取り組みも行うのですか?

はい。10年ほど前から小動物を増やす取り組みを始めました。故郷ペルチェ地方の村で、7〜8人のハンター仲間と共に自然保護のための協会を設立し、生垣で区切った1000ヘクタール弱ほどの保護地域を作っています。ここで、数が減ってしまった小動物のすみかとなるビオトープを作ったり、彼らの餌となるキビやビーツを育てています。

これは温暖化だけでなく、農業が大型機械で行われるようになり、植物が一度に根こそぎ収穫されてしまうようになったことも原因です。殺虫剤などの薬品の使用で、生態系が乱れてしまっていることも挙げられます。可能な限りオーガニックな方法で農業を行うことも、現状に歯止めをかけるための重要な方法です。

──そんな自然環境を取り巻く現状に対して、料理を通してできることをどんなふうに捉えていますか?

料理ごとに、使用する食材のテロワールを伝えるようにしています。例えば、今のメニューなら「ペルチェのビオトープで調理されたモリバト」。ペルチェ地方から採れた野菜畑の土を生地に混ぜ込み、モリバトを包んで焼き上げた料理です。



まず、モリバトの胸肉を、ペルチェ地方に多く生えている木である栗の葉でくるみ、さらに土入りのパイ生地で包んだものに、ビオトープからの苔と枝をかぶせて、オーブンで焼きあげました。サービスする際に、パイ生地から胸肉だけを取り出して、モリバトの内臓のパテや、骨で作ったソースを添えて提供します。これが、地元のテロワールの味を料理に再現する方法です。
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