実際、例えばコロナ中には120ほどのスキリングプログラムが用意され、コーディング、バリスタ、シェフなど、世界中からさまざま分野の専門家を招き、若者の技能向上が図られた。「国をあげて未来に注力している。変化は確かに起きているのです」とジュリアンは強調する。
作り出さず、見つけ出した
伝統や歴史を大切にしながら、未来に向けて変革する。それを体現するビジュアルは、カラフルで大胆、かつ現代的で、むしろ過去の雰囲気がない。しかし、そこにはこの国の文化が色濃く反映されている。「滞在中に街中を歩き、見て周りました。寺院のあるエリアはバチカン市国のようだし、どの家にも壁に絵が描かれ、スーパーマーケットの建物さえも美しい。誰も気に留めていませんが、ブータンは本当にカラフルでアートに溢れた国なんです。実は僕は何も作り出していなくて、あちこちの建物に描かれたアートを注意深く観察し、その一部をピックアップし、モダナイズしたのです」(ハンク)
カラフルな色味は、ブータンの国旗の黄色とオレンジ、ヒマラヤの山やそこに咲く花々、そして伝統的な建築物を彩る装飾たちの色に由来するという。
ブータン当局とのディスカッションが数多く重ねられていた中で、ビジュアルに関するプレゼンは1回のみ。フレームワークへの合意や共感も手伝って、何の修正依頼もなく、Goサインを得た。
ハンクは笑いながら、「タグラインがBelieveなのだから、僕たちを信じなくては、と伝えたんです」と言う。
またこのタグラインは、ブータンが追い求める“ハピネス”にもリンクするのだという。「例えば、僕は明日があると信じるから幸せでいられる。信じることは、幸せの根元なんです」
コロナによる停滞を好機とし、国としてのあり方を国内外に明示したブータン。言葉としてのSDGsやウェルビーイングが蔓延し、その実態が問われるなかで、最先端のヒントに出会える場所となるのかもしれない。
「Forbes JAPAN」2023年6月号の特集「NEXT100 100通りの『世界を救う希望』」 では、「新しく、多彩な、アントレプレナー・リーダーたち」にフォーカス。さまざまな領域で生まれている、これからの起業家、リーダーたち100人を一挙掲載する。地球規模の課題や地域課題に対して「自分たちのあり方」で挑む、彼ら彼女らを「NEXT100」と定義。その新しい起業家精神とスタイル、アプローチで社会的・経済的インパクトを起こす人々の希望と可能性を紹介する(本記事も同特集内で掲載)。