そしてMMBPとしての1つのビジョンを示すのだが、その際にマーベル映画『ブラックパンサー』がインスピレーションになったとハンクは言う。
「(スーパーヒーローの)ブラックパンサーは、アフリカの架空の王国・ワカンダの出身。彼らは伝統的な衣装を着た部族なのですが、実はウルトラハイテク。ブータンは、“仏教版ワカンダ”になり得ると考えたのです。伝統を大切にし、外からは古風に見えるけれど、デジタル化した未来を推し進めている」
そんな世界観を軸に、土台となる“見えない要素”が固まったら、タグライン、ロゴ、キャンペーンなど、“目に見える”クリエイティブのフェーズに入る。ここで忘れてはいけないのが、関係者への説明だ。いかにこのブランドが受け入れられるかによって、アウトプットが隅々まで届くか、あるいは翌年以降もブレずにキャンペーンを展開できるかが決まってくる。
「リブランディングには意見の対立がつきものです。例えばファッションブランドは、何週間も議論することもあります。全員が賛同することは難しいですが、大事なのは対話をすること。対メディア、行政、観光業者などにプレゼンを重ね、新しいブランドへの理解や共感を醸成していきました」(ジュリアン)
「新しい発展の可能性」を信じる
こうして生まれたブータンの新しいタグラインは、「Believe」。シンプルでポジティブな言葉だが、一体何を信じるのか。特に観光客にとって難解にうつるこの一言を、ジュリアンは次のように説明する。「例えば、カップルで10日滞在すると、観光税4000ドルが国の予算となります。政府はそれを改革の推進に使う。観光客は、自分の訪問がこの国の未来に貢献する、国が確かに活用すると信じるわけです。
また、いま人々は何か信じられるものを求めていると思います。経済不安、環境破壊、戦争……そのなかでブータンは、いわゆる20世紀的な工業化のような既存のカタチではなく、テクノロジーを活用し、木を切り倒すこともない方法で豊かさの実現を目指している。人々はそういう新しい発展の可能性を信じたいのではないでしょうか」