MMBPが「Immersion & Discovery」と表現するこのステップで二人はまず、信頼できる7、8人の専門家にレポートを依頼。ブータンそのものを深掘るだけでなく、国家リブランディングの事例、ラグジュアリーツーリズムのトレンド、世代を超えて再訪する場所など、どちらかというとブータンを俯瞰できるようなトピックでリサーチを進めた。
「僕らは既存のデータをあまり信じていないので、生の情報を集めるんです。NYタイムズやガーディアンの記者、旅行ジャーナリストが数週間かけてリサーチし、長い記事を書きます」とハンク。多くの情報からひとつのテーマを炙り出していく作業は、「雑誌を作るのに似ている」のだと言う。
加えて、ブータンに行ったことある人、ない人、繰り返し訪れている人などにヒアリングを実施。とにかく「自分たちのため」にインプットを重ねた。
デジタル化する「幸せの国」
続いて、現地に入ってフィールドワークだ。7月にブータンに降り立ったジュリアンは「英語話者が多いこととデジタル化していること」に驚き、ハンクは、そこに暮らすのが「いたって普通のアジア人」であることを実感した。「TikTokを見て、K-POPを楽しむ若者が、お金持ちになることを望んでいたり、男子は女子を追いかけていたり。GDPが低い貧しい国であるのに、乞食もいないし、盗みもない。国民が自分たちの暮らしに誇りを持っていました」(ハンク)
それは、ブータンを“幸せの国”として有名にした政策によるものといえる。ブータンは1970年代から、GDPではなく、GNH(Gross National Happiness、国民総幸福量)という独自の指標のもと、国民の幸福を追求してきた。教育や医療の無償化により、決して経済的に豊かではないものの“人間らしい生活”が保証されているのだという。
二人はその国で約3カ月間、首都ティンプーから車で片道2日かかる山奥までさまざまな場所を訪れ、官僚からLGBTQのコミュニティの男性、子供たちまで、多種多様な人々に話を聞いて回った。
「僕らはとても聞き上手なんです。対面で50の質問をするようなきちんとしたものから、クラブで出会った若者との立ち話も含め、数百人にインタビューしました」