「給与に反映されない効率化」はリスク要因?
一方、現場からは「積載率をあげたところで運賃が変わらないなら、その荷役作業の負担は無料なのか」「帰り荷として安い運賃で仕事を請け負うくらいなら、空荷で帰りたい」と不満の声もあがる。つまり現状「効率化ではなく、運賃の値上げ」と主張する声が大きい。
それもそのはずである。どれだけ効率的にたくさんの荷物を運んでも、運賃が上がり、給与として反映されなければ、ドライバーには負荷がかかるだけだからだ。
一般的に考えれば、荷物が増えれば運賃も上がるだろうと思われるかもしれない。しかし荷役作業は無料、帰り道に運ぶ荷物は「ついで扱い」のように安く請け負ってきた現実がある。
宅配業者の値上げや公正取引委員会の適正運賃収受に向けた動きの活発化など、改善の兆しは見えるものの「効率化」に比べて「労働環境の改善」に向けた議論は少ないと感じる。具体的に労働環境改善の対策を講じられるかどうかは、経営者の手腕によるところが大きくなりそうだ。
運賃の値上げ交渉と効率化を両軸で進めていかなければ、ドライバーの離職に繋がるリスクを伴う。ドライバー業が魅力のある仕事として、働き手を集められなければ、結果として私たちは輸送手段を失うことになりかねない。
運賃値上げ交渉か、M&Aか
いずれにせよ、輸送力が落ちると危惧されている2024年までに効率化・自動化は到底間に合いそうにない。
社会情勢の影響で運送会社が目減りしていく中で、荷主視点でも運送会社間の信頼関係強化は重要だ。運送会社から運賃の値上げ交渉は始まりつつあるようだが、まだ「立場が弱く交渉のステージに立てない」との声もある。
とはいえ、運送会社にとって追い風が吹く中で交渉のステージに立てないとなれば、他の手段も考えていかなければならないだろう。生き残りをかけてM&Aの手段を取る運送会社も増え始めている。
フジトランスポート(奈良県奈良市)は2023年2月から5月22日まで、「M&Aサクシード」内で事業を譲りたい企業を募っている。「M&Aサクシード」は、M&Aの「お見合い」を仲介するマッチングプラットフォームだ。すでにフジトランスポートは16社とのM&Aの実績があり、譲り手側にもメリットを見出しているという。
現・九州トランスポート(旧・日向商運、宮崎県日向市)はフジグループ入り1年後に従業員の給料アップを実現した。ITシステムの導入、車両修繕の内製化、外部ガソリンスタンドから自社給油所への給油場所変更などのコスト削減がプラスに作用した。
運賃の面では、従来3、4次下請けとして受注していた九州-首都圏間の帰り便に課題を感じていた。M&Aで直接顧客からの受注に変わったことで、中間マージンが削減され、15%ほど運賃の改善がされた。
フジトランスポート側としては、九州方面の配送網確保の点で思惑が合致した背景があり、実現したM&Aだ。マッチングを仲介するM&Aサクシード(東京都渋谷区)によると、ここ数年物流関連のM&Aは1.8倍に伸びているという。
運送業界は「業務効率化」と「労働環境の改善」の2軸での対応が必須だ。後者に関しては国の施策を待つだけでなく、自ら旗をふる必要性が浮き彫りになってきた。
田中なお◎物流ライター。物流会社で事務職歴14年を経て、2022年にライターとして独立。現場経験から得た情報を土台に、「物流業界の今」の情報を旺盛に発信。企業オウンドメディアや物流ニュースサイトなどで執筆。