テクノロジー

2023.04.03 08:15

ディープフェイクにアドビはどう立ち向かうのか

Forbes JAPAN編集部
オーストラリアのグラフィック・デザイン・プラットフォームCanva(キャンバ)や米国発のDocusign(ドキュサイン)など、小規模なライバルとの競争も激化する一方だ。キャンバはアドビよりもはるかに割安(年間120ドルから)で操作も簡単な製品を扱っていることから、短期間でアドビにとって深刻な脅威へと進化を遂げた。

そもそも、メニューや結婚式の招待状のデザインをするためだけに、クリエイティブスイートのサブスクリプションに年間600ドル払い、何時間もかけてイラストレーターの使い方を習得しようという人などいるだろうか。

もちろんアドビも手をこまねいてはいない。21年12月、学生からソーシャル・メディアのインフルエンサーまで経験の浅いユーザーをターゲットに、キャンバよりも安い新アプリ、クリエイティブクラウドエクスプレス(現アドビエクスプレス)を発表した。

またアドビはAIとディープ・ラーニングの技術を用いて全プロダクトを再編成しようとしている。フォトショップでの時間のかかる編集を数時間ではなく数分以内で可能にしようというのだ。

16年、アドビはビデオ映像から不要な物を消す、肌の色を均等にする、表情を変える、声の調子を変更するなどの操作が簡単にできる機能などがあるアドビセンセイを発表した。これはまさに偽物を本物らしく見せることができるツールだ。それによって生じているのが、本物と偽物、現実とつくられた現実を見分けられなくなる、という問題だ。

「コンテンツ認証イニシアティブ」は、この問題への対応のひとつであり、さらにアドビの新機能と新プロダクトを厳しい倫理審査にかけるという対応もあり、エンジニアリング・チームの努力の結晶を市場に出せないケースも実際に生じている。

だが最終的には、信ぴょう性確認の義務は消費者自身が負うことになるだろう、とアドビのナラヤンは言う。つまり、自分が見て、共有や投稿、リツイートをする画像が本物なのかどうか、手に入るツールを使って自分で確認することになるというのだ。「そして、コンテンツの保護も消費者の責任になるでしょう。消費者がほかのことで負う責任と何ら変わりはありません」(ナラヤン)

アドビの巨大なサブスク収入

アドビの主力製品といえばフォトショップ、イラストレーター、プレミアプロ、アクロバットなど。21年には売り上げの73%を占めた。クラウド型ビジネスへの移行が進み、売り上げの大部分をサブスクリクションによるものが占めるなか、これらの事業は減速しつつあり、グループの年間経常収益はこれまで平均約20%伸びていたが、直近四半期には15.5%に減速した。


アドビ◎1982年設立のコンピュータソフトウェア会社。写真やデザイン、イラスト、動画などクリエイティブな作業に特化したソフトウェアで知られる。精度の高いデザイン機能を提供してきたが、それが逆に新たな課題を生んでいる。

シャンタヌ・ナラヤン◎アドビの最高経営責任者(CEO)兼取締役会長。1998年にアドビに入社、2005年に社長兼最高執行責任者(COO)、2007年にCEOとなり、2017年から現職。クリエイティブスイートにサブスクリプションモデルやデジタルエクスペリエンスの導入を進めてきた。現在、ディープフェイクへの対応などが急務となっている。

文= アーユシ・プラタップ 写真=ティム・トッダー 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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