ディープフェイクにアドビはどう立ち向かうのか

Courtesy of Adobe |アドビのシャンタヌ・ナラヤン最高経営責任者(CEO) 兼取締役会長

誰もが動画や音楽をウェブに投稿できるようになった背景のひとつに、デザインツールが使いやすくなったことが挙げられる。だが写真や動画、音声の加工は一方で、ねつ造された情報、いわゆる“フェイク”を生みやすくなった。Photoshop(フォトショップ)などの製品をもつAdobe(アドビ)はいま、人工知能(AI)を使った取り締まりを始めている。


もし、米国のナンシー・ペロシ下院議長のスピーチを意図的に不明瞭にしたうえ、多くの有権者を攻撃するメッセージとなるよう、使われている言葉を置き換えたディープフェイク・ビデオが広まったとしたら。そのビデオをつくり出したテクノロジーがあまりに完璧なために正真正銘の本物に見え、改ざんされているとはわからないとしたらどうなるか、想像してみてほしい。

2020年と21年に、実際にペロシ議長のディープフェイク・ビデオが出回ったときは不自然さが目立ち、ただちに偽物であることが暴かれたが、その後も技術は進んでいるのだ。

これこそ、写真や動画の編集で世界一の人気ツールをつくるアドビが抱えるジレンマだ。カリフォルニア州サンノゼに本社を置く同社はいま、AIとディープ・ラーニングのテクノロジーを使い、商品構成に徹底的にメスを入れようとしている。同社を代表するソフトウェア、フォトショップとビデオ編集ツール、プレミアプロも見直しの対象だ。

「フォトショップする」という動詞にいまや否定的な意味があるのも事実で、最高経営責任者(CEO)のシャンタヌ・ナラヤン(59)もこの点は十分に認識している。「いま、インターネット上で最も重要なのは、コンテンツの信ぴょう性だと言えます。我々はそのコンテンツの信ぴょう性、つまり起源を確認できるようにしなければなりません」(ナラヤン)

アドビは3年前、まずは少数のメディアとハイテク業界のパートナーを対象に、「コンテンツ認証イニシアティブ」という取り組みに着手した。

だがディープフェイクは、ナラヤンが抱える数多くの頭痛の種のひとつにすぎない。アドビでは何年もの間、デジタルメディア部門が一連の優れた主力製品により売り上げの大半を支えてきた。

フォトショップ、イラストレーター、プレミアプロ、アクロバットといった製品が21年の売り上げの73%を占めたが、クラウド型ビジネスへの移行が順調に進んだにもかかわらず、これらの事業は減速しつつある。グループの年間経常収益はこれまで平均約20%伸びていたが、直近四半期には15.5%に減速した。

12年には顧客の「デジタル・フットプリント」を分析する企業向けのサービス、デジタルエクスペリエンスが発売された。

この事業はアドビで最も急成長中のセグメントとして21年は前年比24%アップの40億ドルを売り上げたが、セールスフォースやグーグルとの熾烈な競争に直面している。
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文= アーユシ・プラタップ 写真=ティム・トッダー 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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