消費者の「こだわり」が生んだ新法
続いて、なぜこのような法律が成立したのか、その背景について考えてみたい。中国政府の関連部門はこれを「消費者の権益保護」と説明しているが、そこには「中国消費者の嗜好変化」が存在している。特に化粧品ユーザーは美の探求に熱心であり、常に新たな情報を入手し、より自分に合った商品を求めるようになっている。
そうした中国の消費者が注目しているのが化粧品に含まれる成分だ。
日本でもよく知られた「ビタミンC」や「ヒアルロン酸」に加え、「サリチル酸」や「ニコチンアミド」、「セラミド」、「プリンセピアオイル」など、日本で一般消費者に浸透しているとは言い難い成分名が、中国のSNS上ではコスメの基本情報として飛び交っている。
美白を求めるならこの成分、肌のハリを求めるならあの成分、といったように、成分でスキンケア化粧品を選ぶ時代にある。さらに化粧品成分に強いこだわりを持つ「成分党」と呼ばれる消費者が数多く登場しているのである(現在は「成分党」内により細かな派閥が生まれている)。
2022年にOcean Engine社が発表した「2022美粧成分趨勢洞察報告」によると、中国版Tiktokの抖音上のコスメ成分に関する2021年下半期の検索量は、同年上半期の約1.8倍。コスメ全体の検索量が1.3倍程度であったことを考えれば、成分に対する関心が大きく高まっていることが分かる。
しかし、困った事象も起こっている。
成分党が中国化粧品業界の重要ターゲットとなった結果、一部のメーカーの商品で「成分と、うたっている効果が合っていない」や「うたっている効果をもたらす成分が入っていない」といった現象が起こってしまったのだ。
中国では消費者の権利を守るために、販売されている化粧品に含まれている成分を明確に記し、その効果と一致させる必要が生じたわけである。
こうした成分党の消費者にとって、今回の「化粧品ラベル管理弁法」はまさに必要な法律で、SNSを見ても歓迎している消費者が多い。
ラベル開示リスクとどう付き合うか
消費者視点から見れば極めてありがたい法律でありながら、メーカーにとってはシークレットにしておきたい自社商品のレシピをさらけ出してしまう今回の法律。その双方を両立させる方法はないだろうか。2つの方法が考えられる。
一つは「越境EC」という方法である。