食&酒

2023.03.26 11:30

すべては「人を敬う」ことから 三つ星シェフが生む良い循環

レストランビジネスの中で人間性を高めていく施策として、生江氏が最近力を入れているのが、産福連携と産学連携である。

産福連携は産業と福祉のコラボレーション。レフェルヴェソンスのパティシエールが考案したレシピを、山梨県甲斐市の障がい福祉サービス 多機能型事業所「ぎんが工房」に提供し、一緒にお菓子を開発している。さらにその一部はレフェルヴェソンスが買取り、お客さまに提供することで、工房について知ってもらう機会も創出している。

「僕らは、料理のフロンティアを拓いていく役割を持つレストランなので、年々、新しい技術や知見が増えていきます。それが使われずに貯まるばかりでもったいない、と考えていたんです。どなたかに有効活用していただけたら……と思っていたところ、お付き合いのあるワイナリー、ボーペイサージュの当主・岡本さんのご紹介で、ぎんが工房とのご縁をいただきました」

山梨のローズマリーと岡山の吉田牧場さんのチーズ、美しい島の塩・与那国海塩、北海道アグリシステムさんからの薄力粉と、国内で考えうる最高の素材で固めたというコラボクッキー。

山梨のローズマリーと岡山・吉田牧場のチーズ、与那国海塩、北海道アグリシステムからの薄力粉と、国内で考えうる最高の素材で固めたというコラボクッキー。


一般的に障がい者が作ったものは、人一倍の手間暇がかけられていようと、思うような値付けができず、どうしても安価になってしまう。ところが、三つ星レストランとコラボしたプロダクトであれば、適正な値付けをすることが可能になる。

「このようにガストロノミーレストランが持つ資産を利用して、違う分野で活躍させていくような活動は今後も積極的に行なっていきたいです」

“おいしい・たのしい”が原動力

一方、産学連携は、子供たちへの教育である。神奈川県葉山で行われている「藻場再生プロジェクト」に参加している生江氏は、自らも海に潜り、磯焼け(沿岸地域の海藻が消える現象)について考える子供向けワークショップを、地域の人々と連携しながら行なっている。

「おうちで『楽しかったね』から始まる体験の共有は、未来の環境を支える学びの場の醸成になるのではないでしょうか」と生江氏。

「おうちで『楽しかったね』から始まる体験の共有は、未来の環境を支える学びの場の醸成になるのではないでしょうか」と生江氏。


「みんなで獲った海藻を料理して振る舞うんですが、子供たちが頼もしくて。みんな『こんなに美味しい海藻がなくなっちゃうなんて信じられない。僕たちが守らなきゃ』と声を上げてくれるんです。こういった“おいしい・たのしい”の詰まったリアルな体験を通した学びこそ、強い自意識を芽生えさせるのだと思います」

実際にこのワークショップに参加した子供たちが、自分たちで問題を提起し、アイデアを創出してプロダクトを創り、動画編集&発表したものが、SDGsこどもプレゼン・コンテストで大賞を受賞したという。
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