生江氏がレストランを運営するにあたり、大切にしているのが人間性だ。人は他人を思いやる能力を持っているという信念に基づき、人間性を磨く場としてレストランを捉えている。コロナや戦争などで不確実性が高く、人々の心が安らがない時代において、今回「アイコン賞」が生江氏に贈られたことは、おそらく必然なのだろう。
多様性が豊かさを生む
ここ最近、Generative AIの勃興により、AIと人間についての議論が盛んになっている。人間性をテーマに活動している生江氏は、どのように考えているのだろうか。実は生江氏、AIが注目されるずっと以前に、IBMのワトソンとコラボして料理を作るなど、テクノロジーへの関心も高い。「先日ChatGPTに、鴨とアスパラガスを使ったフランス料理のレシピを教えてくださいとリクエストしたところ、まったく美味しそうじゃないメニューが出来上がってきて。当分、料理人の職は奪われないだろうと安心しました(笑)。恐らくプロの料理人はアナログな人が多いので、ネット上に質の高い情報があまり上がっていないんでしょうね」
サービスにおいても、客は一人一人が違うパーソナリティを持ち、同じ客でも日や時間帯によって気分や空気感が変わるので、状況に合わせた声がけをしなければならない。AIが人の感情を読み取れない限り、対応が難しいのではないかと生江氏は考えている。
もちろんレストランもビジネスなので、AIを有効活用して利益を追求することも可能だ。しかしながら、結局AIはネット上の膨大な情報の集積から最適なものを提示するので、どうしてもアウトプットが均質化してしまう。
「レストラン業界はもちろん、他のビジネスやコミュニティでも同様だと思いますが、多様な価値観があってこそ豊かさが生まれますし、多様なもの同士がお互いに認め合いながら成り立つことで、より良い文化や社会の形成に繋がると思います」