本書は、著名な写真家であり、著者でもある渡邊奈々さんがまとめた、世の中を変えようとしている社会起業家たちへのインタビュー本です。
発刊されたのは、まだ社会起業家という言葉になじみがなかった2005年。さまざまな社会的問題を、ビジネスの手法で解決しようとする「チェンジメーカー」18人の生き方は新しくてカッコよく、本文に添えられている渡邊さんが撮影した写真から、彼らの静かな情熱も感じとることができます。
私が本書を読んだのは、高校3年生の時です。バスケに打ち込んでいたこのころ、チームマネジメント向上を狙ったのか、顧問の先生が一大ブームとなった「もしドラ」の原書となったドラッカーの『マネジメント』を読む時間を設けたのです。
それをきっかけに図書室に通うようになった私は、歴史やビジネス書、学問の入門書など、さまざまなジャンルの本を読みあさりました。
図書室の年間ランキングで1位になるほどたくさん読んだ本のなかで、なぜ本書が心に残ったのか。それはきっと、大学進学を前にして、長く打ち込んできたバスケに代わる大きなチャレンジを探していたから。本書を読んだことで、それまで知らなかった世界を知るための扉を開けたように思います。
さて、本書に登場する社会起業家たちがチャレンジしているのは、貧困問題やエイズ対策など、特に、新興国の課題として取り上げられる問題解決です。大問題と向き合う彼らは、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのような特別な人ではなく、あくまで私と同じような「普通の人」です。
その彼らが普遍的な課題を解決しようとしている姿から、「自分にもできるのではないか」「バスケでプロを目指すより、やりがいある勝負ではないか」と思い始めました。
そして私はいま、世界中に存在する適切な金融サービスを享受できていない人々のために、成熟した日本からテクノロジーとデザインで、消費者信用産業の構造そのものを変革しようとしています。
大学やサークル、会社選びなど、人生は選択の連続です。自分の選んだ道が正しかったのかを迷うことも度々あるでしょう。
私がひとつ言えるのは、人生を決めるのは大きな分岐点だけではないということです。なぜなら、私のまわりの成功者たちは、多くの人が見過ごしてしまうような小さなきっかけをチャンスに変えているからです。私の人生を決めるきっかけが、たった一冊の本だったように。
本を読むときも、もしかしたら何かきっかけがあるかもしれない、そう考えながら読んでみてください。小さな心がけひとつで、得るものは大きく変わるはずです。
title/チェンジメーカー 〜社会起業家が世の中を変える
author/渡邊奈々
data/日経BP 1760円/224ページ
やべ・としあき◎1993年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、GE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)に入社。北アジア3カ国のファイナンス業務などに従事。2018年3月よりBASEへ入社。責任者として子会社BASE BANKの立ち上げなどに尽力。19年に退社し、Crezitを創業。
わたなべ・なな◎写真家、アショカ・ジャパン創設者。1980年よりNYで写真家として活動を始める。87年にはアメリカン・フォトグラファー誌の「Photographer of the Year」受賞。日本で最初に社会起業家に注目した写真家。現在もチェンジメーカー育成と社会の構造変革に挑戦し続けている。