これらの過程で、個の能力だけに頼るのではなく、チームとしてベストソリューションを追求することの価値を体験したのも大きな財産となった。高校時代は水球部に所属し、ゲームメーカーを務めた。個々の選手の力は高くなかったが、特徴のあるプレイヤーの得意技を組み合わせれば、格上に勝ち全国大会にも出場できることを体感した。
大学時代には学内で外交官試験のための勉強会を主催してチューターを務め、多くの仲間が合格した。仲間を巻き込み、志を同じくする優秀な人材と切磋琢磨することで、自分ひとりの夢をかなえる以上に世の中をよくすることにつながるのではと思い至った。「いまの組織運営のやり方は、その延長上でしかない」というのが片山の実感だ。
目下、環境機器が開発した独自商材は、AIを活用した害虫のモニタリングシステムなど、従来の防虫資材の範囲を超えてデジタルの領域にまで広がっている。これを武器に「防虫DX×グローバル展開」でビジネスを拡大する計画だ。
グローバルにビジネスが広がれば、途上国の公衆衛生向上にも貢献でき、少年時代からの夢やアカデミアでの経験と環境機器のビジネスが、直接交差することになる。
そして組織は現在よりもずっと大きくなるだろう。そのときに、片山という超強力な司令塔の存在なくして再現できないチームビルディング/マネジメントのスタイルが成立するのかも興味深い。
「副理事長を務める国際協力NGOの活動も精力的にやっているのですが、スモール・ジャイアンツ アワードの後に、審査員の山井太(スノーピーク会長兼社長)さんと入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授)さんから、会社経営に3割ぐらいの力しか使っていないのではと指摘されてしまい、素直に反省しました(笑)。従業員数が100人くらいまでは、いまのやり方で十分にやれますよ」。いまだにそのポテンシャルは底が知れない。
片山淳一郎◎京都大学法学部卒。日本興業銀行を経てアジア経済研究所開発スクールに入学、同研究所からの奨学金でケンブリッジ大学経済学部修士号を取得。1995年、家業の環境機器に入社。2000年より代表取締役。
『Forbes JAPAN 2023年4月号』では、規模は小さいけれど偉大な企業「スモール・ジャイアンツ」を大特集。受賞7社のインタビュー記事やスノーピーク代表の山井太、経営学者入山章栄ら、有識者によるオピニオンも掲載。世界で勝負する彼らは、どのようにその「強み」を差別化し、武器にして成長してきたのか。独自の方法で可能性を切り拓いた試行錯誤の道のりには、多くのビジネスのヒントが詰まっている。