「10年近くベンダーと納入先という関係で付き合ってきて、ある時、『よさそうな会社なんで入れてください』と言われたんです」と片山は振り返る。広くステークホルダーに対して「いいこと」を積み重ねていく経営姿勢に引かれ、取引先や競合他社からも人が集まってきた。
人材活用の手法も特徴的だ。高度な知識やスキルをもつ人材でも、自分の得意なことだけをやればいいわけではない。例えば、「虫博士」が商品開発にアサインされても、企画から製造・販売・サポートに至るまで、すべてのプロセスに責任をもつ。
もちろんほとんどの従業員にとって、最初はスキルや知識が不足しているプロセスだらけだ。そこを片山自身がきめ細かくフォローする。同社の組織は役職などの階層がなく、基本的には従業員全員が片山と直接つながるフラットの極みともいえる構造になっている。
プロジェクトごとにチーム構成も片山が決め、自社のシステムエンジニアが開発した日報・情報共有システムをベースに、マイクロマネジメントを行っている。ただし、上意下達で細かい指示をしているわけではないのが大きなポイントだ。
「僕の役割はファシリテーターであり、オピニオンリーダーでもある」と片山は話す。すべてのプロジェクトに文字通り主体として参加し、議論を促し、その結果を具体的なアクションプランに落とし込んだうえでメンバーに納得して動いてもらえる環境をつくるのだ。
従業員ごとのスキルセットを見極めたうえで適度なストレッチをかけられるプロジェクトにアサインし、丁寧に伴走して自律的な成長につなげる。
だから環境機器の人材採用では、「チームプレイができる人」であることを重視している。「承認欲求が強すぎる人はうちの会社に向かない。虫オタクって、融和的な人が多いんですよ」と片山は笑う。
同社は年2回、従業員全員でフルマラソンに参加しているが、入社面接時は「マラソンを走ってみたいですか?」が「やったことがないことでも、やってみようと思える人」を見抜くためのキラークエスチョンだ。
マネジメントの原点は「水球」にあり
一方で、環境機器のような経営スタイルを機能させるには、社長自身に万能のスーパーマンのような能力の高さが求められるように見える。「中小企業の社長ってそういうことが求められているんじゃないですか」と話す片山の表情には気負いがない。幼いころから、所属するコミュニティ内で飛びぬけて優秀で運動もできた片山は、その能力をもて余していた感があったという。「その能力をほかの人のために使いなさい」と小学1年生で教師にかけられた言葉が、その後の人生の指針になった。
京都大学に進学し開発途上国支援に携わる外交官を目指したが、卒業直前に転機が訪れる。環境機器の創業者である父の死。経営は母が継いだが、家業とビジネスへの思いが芽生えた。進路を民間に変更し、日本興業銀行へ。