勝ち組、負け組の二極化が進む
ただし、投資家による選別は以前に増して厳しくなっている。「資金を集められる会社とそうでないところですごく二極化が進み、大きな差が出てきている」(GCP代表パートナーの今野穣)。新規投資を抑え、既存投資先のフォローオンに集中しているVCもある。順調に業績を伸ばしている企業は健在で、大きく評価額を上げることは難しくとも、リーガルテックのLegalForceや建設DXのアンドパッドなど、100億円以上の調達に成功する事例が22年も継続して出ている。「投資家みんなが勝ち馬に殺到している」との声もある。勝ち組になるために求められることは何か。「いまは変化の時。状況を正しく理解すれば、チャンスに変えることができる」と話すのは、シニフィアン共同代表の村上誠典だ。「言うならばバック・トゥ・ノーマル(原点回帰)。優れたスタートアップはすでに冷静に対応して、組織を筋肉質にしている」。
評価額バブルが崩壊し、ボーナスタイムが終わったいま、投資家たちはトップラインの伸び率一辺倒ではなく、経営効率や採算性を重視する姿勢を強めている。バーンマルチプル(資金燃焼倍率)やNRR(売上継続率)、仕入れから現金回収までの日数を示すキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)といった指標の改善に力を注ぐ企業が増えてきた。
一方で、テーマは広がりを見せている。ここ数年はDX関連に投資が集中していたが、SaaSやフィンテックの評価額が調整されたこともあり、投資家の関心が分散。22年の資金調達額上位を見てみると、モビリティ、ロボティクス、ヘルスケア、宇宙、フードテックなども多い。特に目につくのが、クリーンエナジーコネクトやシェアリングエネルギーといった脱炭素系だ。
WiL共同創業者兼CEOの伊佐山元は、「いま米国ではクライメートテックが盛り上がっている。ここにきて、社会が抱えている課題が何なのかを、しっかりと突き詰めていこうとする流れが起きている」と話す。
再エネ発電事業の自然電力が22年10月に700億円の巨額調達を発表したことは、こうした動きの象徴といえるだろう。国内スタートアップに目を向ける海外投資家は昨年末に多くが消えたが、今回、同社に投資したのは、カナダの大手年金基金であるケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)で、日本のスタートアップには初出資。市場環境にかかわらず、新しい領域を切り開き、グローバルに飛躍する企業は増えているのだ。
米国の金融引き締めは23年春にピークアウトするとの観測もあるが、景気後退入りは濃厚と見られており、CVCなど事業会社による資金供給に変調をきたす可能性がある。大事なことは、ボーナスステージの再来を期待するのではなく、新たな局面に対応する能力を身につけることだ。WiLパートナーの難波俊充は、次のように話す。
「景気がよいときは、ある程度の放漫な経営でも勢いがあれば評価された。しかし状況は変わり、より綿密に戦略を立案推進する必要があり、大胆さと繊細さを合わせもった経営ができるかが問われている。投資家もまた然りだ。これまではテーマ先行で投資実行しても一定のアップラウンドが期待できたが、いまは自らがしっかりとした仮説をもち、投資先候補を見定める力が求められる。起業家と投資家ともに、真の実力を備えた“本物”であるかが問われているのです」