個人差あります
この記事の冒頭に紹介した私の研究チームの分析結果には、個人差がありました。誰もが、ライバルがいるほど理想自己を高く掲げ、モチベーションが強くなり、モチベーションがパフォーマンスを高めていたのではなかったのです。モチベーションに関する心理学の理論では、何か目標を達成しようするときに、「ポジティブな結果を得ようとして頑張る」タイプと、「ネガティブな結果を避けようとして頑張る」タイプがあると考えています。前者を「促進焦点」タイプ、後者を「予防焦点」タイプと呼んでいます。
促進焦点タイプの人は、ポジティブな結果を得ることに、つまり「勝つこと」に焦点をあてて、「なんとしても目標を達成するぞ」という気持ちが強く、現状が少しでもプラス方向に進むことを目指します。目標を追求する手段としては、速さを重視し、リスキーな手段を選ぶことも躊躇しません。人づきあいでは、まわりの人から好かれたり尊敬されたりすることを目指し、自律的に頑張っている自分を認めてくれる人を求めます。
他方、予防焦点タイプの人は、ネガティブな結果を避けることに、つまり「負けないこと」に焦点を当てて、安全や安心を求め、現状がマイナス方向に動かないよう防ぐことに力を注ぎます。目標達成の手段としては、正確さを重視して、安全な方法を選択します。人づきあいでは、まわりの人から嫌われないことを目指し、自分とのつながりを大切にしてくれる人を求めます。
促進焦点タイプと予防焦点タイプというタイプ分け。あなたは自分のことを、どちらのタイプだと思いますか?
私たちの研究結果で、ライバルの存在が、パフォーマンスの向上に影響したのは、促進焦点タイプの人たちだけでした。予防焦点タイプの人たちは、たとえライバルの存在を意識しても、パフォーマンスの向上に影響していませんでした。
スポーツ競技者でさえ、ライバルの存在が影響したのは促進焦点タイプの人たちだけですから、スポーツ競技と比べて、複雑な要因が絡まっているビジネス現場の人たちの誰にとっても、ライバルの存在が重要だとは言えません。
ライバルがいた方が良いと思う人は
この記事をここまで読んで、あなたが「でも、やはりライバルが欲しい」と思ったならば、あなたは、促進焦点タイプの人です。促進焦点タイプの人は、ライバルの存在がパフォーマンスの向上につながる可能性が高いので、ライバルの存在を、次のように意識しましょう。
あなたにとってライバルだと思う人を、「私のライバルは〇〇さんだ」と具体的に意識してください。そのライバルは、あなたよりも少し“上”を行く人が望ましいです。その人に、いろいろな意味で、追いつき、追い越すことを目指して、自分をコントロールし、日々の活動や行動の幅を広げたり強めたりしてください。
一日の仕事の終わりに「ライバルは、きょうはどうだっただろう」と、ライバルの動きを思い浮かべましょう。ライバルとの対面がなかったり、ライバルが遠方に居たりする場合は、想像で良いのです。また、ライバルの視点から、あなたがきょう一日、どのように見えたか、あなたの一日の仕事ぶりが、ライバルの目にどう映ったか想像してみましょう。その結果を、あすの活動や目標の修正に役立ててください。
あなたの、少し“上”を行くライバルに近づくことを小目標にして、自分の限界を引き上げ、ライバルに追いつき、追い越しましょう。あなたが手に入れたい大きな目標への到達のために、ライバルの存在を役立てるのです。