ちなみにこのお店は、僕らの商品をインターネットで販売していないのですが、店頭にいると、あくまでも顔の見える顧客を対象にしているのがよくわかります。
お店のオーナーFrauenschuhさん(左)とお客様(右)
イベント当日は日本酒と日本のお菓子を用意してお出迎えしました。大勢が押し寄せて大忙し、というよりも、既にいくつもsuzusanを持ってくれている顧客の方々が来てくださり、一人一人の方々とじっくりと向き合えました。有松の風景を写真や映像で見せたり、どうやってこのセーターができたかなどを話しながら、お客様や販売員の方と一緒に色を悩んだりと、とても有意義な時間でした。
顔の見える人に、伝わる方法で
僕が店頭にいた週末の売り上げを聞くとびっくりするような数字で、こんな小さな町でそんなに売上が出るのか、と改めて驚いたと同時に、このお店の地域とのつながりを改めて考えました。僕は常々、エンドユーザーの顔を見ながら、もしくは想像しながら、その人達の暮らしや環境に合った商品を作ることがデザインをするうえでとても大事だと思っていて、実際にお客様に会える機会はデザインにおいて最も重要なシーンだと考えています。
ヨーロッパの人々は、体型だけでなく、髪の毛の色、肌の色、目の色もさまざま。その中で次にどんな色を作ろうかと考えるときに、目の前から聞こえてくる声に耳を傾けるのが、アトリエにいるよりもよっぽどインスピレーションにつながります。現実では、スレンダーで長身のモデルではない、普通の暮らしのドイツ人の女性が袖を通しています。
また、お店の方が僕らの作ったものをどのように伝えているのかもとても興味があることです。今回も、日本に行ったことのない人たちが、遠く離れた愛知・有松で作られたものをどういう表現で説明し、販売しているのかを店内で見ていました。
ものづくりをしている日本の地域の人たちは「作り手である職人が商品を伝えることが最も説得力がある」と考えがちだと感じることがあります。それも間違いではないのですが、販売先のマーケットに委ねるということも僕はとても大事だと思っています。人口8000人の町で、オーストリア人がドイツ語で一生懸命に僕らの商品を説明して、お客様が喜んでいる姿を見て、有松という僕らの小さなローカルから離れて、また別のローカルに辿り着いた先の伝える力を感じていました。