生豆の流通革命が環境負荷を減らす。スペシャルティコーヒーの民主化

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一日におよそ30億杯。石油に次ぐ巨大産業といわれるコーヒーだが、2050年問題と呼ばれる深刻な問題に直面している。地球温暖化の影響で栽培に適した耕作地が減っており、現在消費されているコーヒーの過半数を占めるアラビカ種に限ると50年には半減するとの予測があるのだ。その問題解決に挑むスタートアップ「TYPICA」が注目を集めている。

長年バリスタ、焙煎士などとしてコーヒー業界で経験を積んだ山田彩音と、ソーシャルイノベーションを軸に複数の事業を経営してきたシリアルアントレプレナーの後藤将が2019年に創業したTYPICAは、コーヒー生産者と焙煎所が「スペシャルティコーヒー」の生豆を取引するオンラインプラットフォーム。小規模農家が生産する、高い品質と独特の風味をもったスペシャルティコーヒーは、流通経路が限られ、一部の大規模な焙煎所以外は入手が難しかった。TYPICAは、世界の生産者と焙煎所を直接オンラインでつなぎ、コーヒー生豆の麻袋1袋単位での直接取引を可能にした。

世界で2兆円に上るコーヒー生豆原料市場は、生産者の67%を小規模農家が占めるが、流通方法の問題に加えて、先物市場で価格が決定されることで、不安定。手元に残る利益はわずかで、44%が貧困に陥っているという。さらに、地球温暖化の影響で収穫量も減り続ければ、コーヒーを耕作する小規模農家はいなくなってしまう。

「大規模生産されるコーヒーは環境負荷が大きい。自然と共生しながら生産する小規模農法のコーヒーは環境負荷が小さく、サステナビリティが高い。彼らを応援することが環境問題の解決の糸口にもなるんです」(後藤)

19年にオランダのアムステルダムと大阪を拠点に輸入を始め、3年で取引額は大きく拡大した。拠点も東京やソウル、台北、米国に広げ、すでに32カ国・地域2000軒の生産者、39カ国・地域3000軒の焙煎業者が登録する。世界的なスペシャルティコーヒーの流行で、焙煎所の強いニーズも追い風になっている。

会社の成長の鍵は言語とコーヒーへの思いだった。英語が得意ではなかったふたりだが、最初からグローバル市場を狙うためにオランダでの起業を決意。コーヒーのサステナビリティを共通言語に同志を増やし、多言語とITを駆使する、簡単にはまねできないビジネスモデルができた。

「スペシャルティコーヒーの価値は、生産者ごとの特別な香りや味の個性を楽しみ、理解を深めること。オンラインによる少量の直接取引が可能になると、生産者への理解が深まり、コーヒー文化が発展するだけでなく、現地の農家が直面している問題を知り、その解決に向けた機運も高まってきました」(山田)

実際にTYPICAの取引で、生産者の所得向上だけでなく、地域社会の発展にも効果が出てきているという。コーヒー産業のカーボンニュートラル化を目指す植樹プロジェクトも始めた。「コーヒーに関わる人はみんな、そのサステナビリティに貢献したいと願っている。同志のコミュニティがプラットフォームを通じて着実に広がっています」(後藤)。

文=成相通子 写真=小田駿一

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