だが、その椅子がどういう椅子なのか、確保した後に何が待ち受けているのか、他にどんな椅子があるのかなど、ルールを知らないままゲームに参加しているケースが大半のようだ。
ゲームのルールを知るためには、業界地図や四季報など、企業に関する情報や就職・転職活動に関する書籍があまたある。一方、ある会社に入社後数十年にわたって賃金がどのように上昇し昇進がどんなタイミングと努力によって起こるのか、また、ワークライフバランスが企業もしくは業界によってどのように違うのかについて俯瞰した情報が得られる媒体は少ない。
そんななか、『「いい会社」はどこにある?』(ダイヤモンド社刊、渡邉正裕著)は、日本の仕事を、「やりがい」「キャリア」「負荷」「勤務環境」「人間関係」「報酬水準」「カーブ分布」「査定評価」「雇用」の9つの視点から、実際に企業に勤務している人への取材をもとに評価しようとした本だ。
850ページという、厚さだけでいうと電話帳にも匹敵しようかというページ数の本だが、PIVOTのビデオに出演した著者は、「興味あるところだけあれば読めばいい」とコメントしている。巻頭に掲載されているグラフは、一目で日本の労働市場の状況を複数の切り口から俯瞰して把握できる。
例えば「報奨水準(手取り、35歳平均)と勤続年数」「学問の功利性マップと「新卒で雇われる力」」などは、仕事を選び、仕事と生活を両立させて行く上で現実的に参考になるだろう。
著者渡邊正裕氏が出演したPIVOTのビデオ
35歳時点の手取りは三菱商事>>グーグル!?
好待遇で新卒の社員を迎え入れる企業がニュースになることはあっても、まだまだ初任給が企業間で横並びの傾向が強い日本。だが実際のところ、入社後の待遇や会社人生の長さや短さは実は千差万別だ。本書は、人生における賃金の上昇カーブを日本企業と外資系(トヨタとデロイトトーマツ)で詳細に比較したり、三菱商事とグーグルジャパンのキャリアパスと等級別の給与情報も掲載したりしている。また、先述の「報奨水準(手取り、35歳平均)と勤続年数」のグラフでは、縦軸に手取り年収の高低を置き、横軸に勤続年数の長短を設定。右上には、勤続年数が長く手取りが高い企業、例えば三菱商事などの総合商社、民法キー局、大手出版社や日経新聞、電通、博報堂などが当てはまり、これらの企業を「プラチナ昭和企業」と命名。この一角に集まる企業における働き方の特徴を「ローリスク・ハイリターン」「中高年ほど仕事が楽で高収入」「日本国と一心同体な既得権」などと形容した。
右下に当てはまるのはパナソニックやNECをはじめとするメーカー、NTT、サントリー、キャリア官僚、日産や地方公務員で、「古い戦後日本企業」と名付けた。その特徴には「ローリスク・ミドルリターン」「公共・通信インフラ系」「仕事がハード過ぎず雇用安定」が挙がった。
一方、手取り年収が高いが勤続年数が短い左上は「ガチの成果主義企業」で、外資金融、グーグル、アクセンチュアなどの外資コンサル、アマゾン、SAP、P&Gなどの企業が含まれ、「学歴か高度なIT技術が必要」「ハイリスク・ハイリターン」「人件費=変動費」といった特徴が説明された。
左下は手取り給与が高くなく勤続年数は低い「知的ブルーカラー企業」群。ヤフー、楽天、ウェブ開発やベンチャー企業、中小企業やホテル・旅館などが当てはまるとし、「組織の平均年齢が若い」「人生の流動化が激しい」などが特徴で、「安定はないが希望はある」という著者の希望的観測(?)も特徴として挙げられている。