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企業の間で従業員の在宅勤務(テレワーク)を推進する動きが広がっている。トヨタ自動車は今年4月から、1歳未満の子供を持つ社員を対象に週に1回、2時間出社すれば残りは自宅で働けるようにする制度を導入した。事務職と技術職の多くの社員が対象となり「子供を育てやすい環境を整え、女性の活用にもつなげていく」としている。

同様の試みは三菱ふそうや日産自動車、三菱商事、日立製作所、ソニー、日本生命などの企業でもはじまった。いずれの企業も従業員の多様な働き方を許容することで、女性や高齢者の活用、社員の会社満足度の向上といった効果を期待している。

背景にあるのは政府のテレワーク推進の流れだ。自民党・安倍政権は2013年のIT政策の新戦略に「テレワーク推進」を盛り込んだ。

・「子育て世代の女性の就業促進効果」を狙い、導入企業数を2020年までに12年度の3倍に増やす。
・週1日以上、終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカーを、全労働者数の10%以上にする。

上記2つの数値目標が掲げられた。また、総務省は今年6月に「総務省テレワーク推進計画」を発表。本年度のテレワーク利用職員を昨年度の348名から約3倍の1,000名にまで増加させるプランを公にした。


株式会社テレワークマネジメント代表取締役 田澤由利氏
株式会社テレワークマネジメント代表取締役 田澤由利氏

「テレワークは2006年の第一次安倍政権当時から推進されていましたが、注目を浴び始めたのは2011年の東日本大震災の頃です」と語るのは田澤由利氏。企業向けに在宅勤務導入のコンサルティングを提供する株式会社テレワークマネジメントを運営している。



「震災の影響で企業の事業継続性に関心が高まりました。当時はスマートフォンが急速に普及した時期。ノマドワークといった言葉も登場し、若者たちの間には“どこに居ても仕事はできる”という意識も芽生えました。少子化が進み労働人口の減少が叫ばれる中、企業は人材確保の視点からテレワークの必要性を感じ、行動し始めています」

調査会社IDCジャパンの調査によると、オフィス外で就業時間の20%以上の業務を行う“テレワーカー”人口は2013年末の時点で1,360万人。労働力人口の20.7%に相当する。テレワーク関連ソフトウェアの市場規模も2013年度の1,828億円から2018年には2,371億円に達すると予測している。

「一部の大企業の間で導入がはじまったテレワークですが、この流れが中小企業の間まで広がっていくのはまだこれから。在宅勤務の導入には、社内の情報共有のIT化が必須ですが、中小企業の場合、Web会議すら使ったことが無いという会社も多いのが現状。だからこそ、この分野の市場はこれからの成長が期待できるのです」(田澤さん)

企業のテレワーク導入に関して「最も重要なのは、在宅勤務でも会社で働いているのと同様の環境で同様の仕事ができるようにすること」だという。

 Kasia Bialasiewicz / Bigstock
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「特に業務のコミュニケーションがポイント。在宅勤務でも、いつもと同様のコミュニケーシヨンがとれれば、引け目を感じずに働くことができます。そのためにはチャットツールを活用した情報共有の一元化や、Web会議の活用など、ITの仕組みを大いに活用することが必要です」



そんなハードルを乗り越えて「テレワークを導入するメリットは大きい」と語るのは都内大手メーカーの人事部担当者。「これからは“会社に何時間いたか”よりも“どんな成果を生み出したか”が問われる時代。働きやすい仕組みを整えれば、自然と優秀な人材が集まる流れも出来てきた」という。

「また、弊社では2023年には介護が必要な親を抱える従業員が5人に1人となると予測しています。社会が高齢化する中で労働力を確保するために、テレワークの導入は企業にとって避けられない課題とも言えます」(同メーカー)

前出の田澤さんは次のように語る。
「これまでの働き方のまま、単にテレワークのシステムや制度を入れてもうまくいかない。在宅でできる仕事を作るには限界があります。情報のデジタル化や組織のクラウド化を進め、仕事のやり方を変えることで、『いつもの仕事がどこでもできる会社』に変化することが重要です」


ここ数年、政府や地方自治体が、テレワーク推進のための助成金を交付する動きも活発化した。ワーク・ライフ・バランスの向上や生産性の向上、優秀な人材の確保など、様々な効果が期待できるテレワークの動向に引き続き注目していきたい。

取材・文=上田裕資

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