ビジネス

2023.01.13 16:00

好循環の進化がステークホルダー資本主義の責務


企業が相互に認証する仕組みをつくる


参考となる動きとして江田が挙げるのは、米アップル社の取り組みだ。2020年、アップルは自社が販売するすべてのデバイスのサプライチェーンも含めて30年までにカーボンニュートラルを達成すると発表した。大企業が中小企業を含めたサプライヤーに対して、多少コストはかかっても再生エネルギーを使った製品を購入することなどを明確に示すことで、地球環境の改善に寄与できると江田は言う。

一方で、課題もある。サプライチェーンがあまりにも複雑化したために、大企業からは個々の活動が見えにくくなっていることだ。

この課題を解決する試みのひとつとして、世界経済フォーラム傘下の「グローバル・バッテリー・アライアンス」(GBA)による「バッテリーパスポート」プロジェクトが挙げられる。これは電池の原料の調達から組み立てに至るまでの過程を見える化し、参画企業が相互に認証を行うシステムだ。

例えば、電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン電池にはレアメタルのコバルトが欠かせない。しかし、コバルトの最大産地であるコンゴ民主共和国の採掘場では児童労働が指摘され、鉱山権益の多くをもつ中国企業がコバルトを製錬する工程で排出するCO2も問題となっている。従来、このような背景は一社の力では把握することが難しかった。しかし、このシステムを利用することで業界が連携し、EVを生産した後のリサイクルまで責任をもって取り組み、非財務的な貢献を可視化することができる。「こうした貢献が投資家に評価されると、将来の成長に投資ができるというよいサイクルになっていく。それを進めるのが『ステークホルダー資本主義』の責務だ」


江田麻季子◎米国の大学で修士号(社会学)を取得後、大学病院などでマーケティングに携わる。1997年に帰国し、企業勤務を経て2000年にインテル入社。13年に同社代表取締役社長。18年4月より現職。

文=中田浩子 イラストレーション=ブラティスラフ・ミレンコビッチ

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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