ビジネス

2023.01.13

好循環の進化がステークホルダー資本主義の責務

イラストレーション=ブラティスラフ・ミレンコビッチ

近注目を浴びるようになった「ステークホルダー資本主義」の概念だが、「新型コロナウイルス感染症の爆発的な拡大によって、経済活動は国境を越え、業態を超えて相互にかかわっているという事実を人々はあらためて実感した」と、世界経済フォーラム日本代表の江田麻季子は話す。「コロナ禍では、どんなに大きな企業でも一社では対処できなかったし、ひとつの国では影響を抑えきれなかった。いかに私たちの社会がグローバルな経済活動によって支えられてきたかということがわかった」

江田が指摘するように、グローバル化の進展によって貿易を通じたモノやサービスの流れは活発化し、企業のサプライチェーンは複雑化し、事業にかかわるステークホルダーは広範囲に広がっている。

「企業の社会的責任は一つしかない。それは利潤を増やすことである」。ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ミルトン・フリードマンがこう唱えたのは1970年のことだ。その後、数十年の間に世界は飛躍的な経済発展を遂げた。企業は新しい市場を開拓して富をもたらした。しかし、この株主資本主義には負の側面があった。

「所得や富、機会の不平等の拡大や、持てる者と持たざる者との間の緊張の高まり、そして深刻な環境の悪化をもたらした」

世界経済フォーラム会長のクラウス・シュワブは著書『ステークホルダー資本主義』でこう述べている。急激な経済発展は、気候変動や乱開発など多くの社会課題も引き起こした。そして、この「いびつ」な成長は長く続かないということに世界中の人たちが気づき始めたのだ。

では、こうした状況のなかで、大企業にできることは何だろうか。江田は「グローバリゼーションで拡大したサプライチェーンを通して、環境や人権問題を改善するためにリーダーシップを発揮すること」だと指摘する。

「自分たちが使う原材料がどこからどのように運ばれているのか。人権を守りながらつくられているのか。二酸化炭素(CO2)が過多に排出されていないか。取引先の中小企業のガバナンスはしっかり管理されているか。大企業がこれらをチェックすることで、より大きなインパクトを起こすことができる」
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文=中田浩子 イラストレーション=ブラティスラフ・ミレンコビッチ

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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