さらに同記事では、過去25年間のアメリカ経済において、あらゆるセクターの中でテクノロジーのみが勢いを保っている現状についても反省するべきだと主張しています。たとえば、EVへの移行を活性化させたのはフォードやGMではなく、テスラでした。従来より1桁低い価格の宇宙旅行を実現したのも、NASAやロッキード・マーティンではなくSpaceXでした。新型コロナウイルスが世界中の経済や組織に大打撃を与えたときも、危機を乗り越えられたのはZoomやモデルナのようなテクノロジー企業のおかげだったのです。
この新しい投資テーマについて知ったとき、私は職業柄、日本の場合はどうだろうとすぐに考えはじめました。しかしアメリカに匹敵する例となると、悲しいくらい良い例が思い浮かばないのです。日本の国益に貢献する「ジャパニーズ・ダイナミズム」のテーマにふさわしく、なおかつ同じくらい影響力が大きいスタートアップは正直なところ今の日本には存在しないのではないでしょうか。
もしこれが1980年代であれば、いくらでも例を挙げられたと思います。たとえばトヨタやホンダ、ソニーはいずれも戦前からの財閥と無関係ですが、戦後の日本経済を救うほどの大発展を遂げ、日本を米国に次ぐ世界2位の経済大国にまで押し上げました。
自動車産業の躍進は、さらに部品製造などの関連産業の誕生や、鉄鋼やタイヤ、ガラス、電子機器などの需要の拡大にもつながりました。それらの業界では新たな雇用が生まれ、特に農閑期の出稼ぎ先として多くの農業従事者が集まり、発展に貢献しました。
テクノロジーや科学の面でも多くの発展があった時代です。合成素材の開発や洗練により、輸入に頼らなくても衣類などに使う繊維素材を手に入れやすくなりました。また、超大型の鉱石運搬船やタンカーが作られたおかげで、各種原材料の輸入単価が下がりました。これは鉄道や川船で材料を運搬するなど、近代化が遅れている海外の現地プラントに対して、日本のプラントの競争力を高める結果にもつながりました。
こうした成長の中、当時の日本はアジアの中で常に単独で大きくリードしていました。唯一強力な競合相手になり得たのが中国ですが、文化大革命の真っ只中にあり、起業の自由など資本主義的な要素を一切排除していたため、新しい産業を起こせるような環境ではなかったのです。