ナラティブを投資家向けに効果的に使うには、ロジックできちんと裏付けする必要がある。右脳を刺激する「ナラティブ」と、左脳に働きかける「ロジック」。そしてその結果の「トラックレコード(実績)」。これらを緻密に組み立てるプレゼンテーションができるかどうかが勝敗を分ける。
ナラティブとロジックを上手に構成した例として、個人向け資産運用ロボアドバイザーを展開する「ウェルスナビ」のIPO(2020年)が参考になる。
同社の代表取締役CEOの柴山和久氏は、創業のきっかけとなったエピソードをこう話している。
「自分の両親と妻(米国人)の両親が保有する資産額の差に驚き、その差は資産運用助言サービスを若い頃からの利用していたかどうかによるものだった」
この社会課題を解決することをミッションとし、それを起点にIPO時の成長可能性資料にさまざまな情報を掲載した。
(※成長可能性資料は、機関投資家向けのプレゼンテーション資料と通常同様の内容となっている)
筆者なりの解釈で、同社が上場時のIRで公表した資料に盛り込まれた「ナラティブ」と「ロジック」を解説しよう。
【ナラティブ】
ウェルスナビは若い頃から手軽に資産運用を行うためのロボアドバイザーで、ターゲット層は20代から50代の働く世代だ。まず資産運用に関する意識調査を見せたうえで、異なる世代・性別・職業のユーザー4人の声を1人1ページを割き、顔写真入りで掲載。そこには4者4様の視点で、同社のサービスを使う理由が述べられている。
ターゲット層の20代から50代が、資産運用について相談できる相手や知識が不足しているという意識調査を提示し、その後、背景が異なる4人の個の物語を見せることで、統合的なナラティブを形成した。投資家の感情に訴えかけることで「このサービスはさまざまな人に必要とされている」と右脳に印象づけている。
【ロジック①】
20代から50代の日本人の金融資産は650兆円。それを分母に今後10年の預金比率の低下予測と長期投資への分配予測も加え、ロボアドバイザー市場を16兆円〜23兆円と定義した。
以前のこの連載で「解決する課題の大きさが、潜在市場の大きさ」と書いたが、それをロジカルに表現したと言える。
【ロジック②】
さらに国内同業他社との比較を3指標(預かり資産、運用者数、預かり資産の推移)において掲載し、客観的なデータを用いて市場をリードする能力を見せた(この部分は東証から成長可能性資料の見本としても取り上げられている)。
①②それぞれがナラティブを補強するロジックとして左脳に刻み込まれる。
ナラティブとロジックは相互に補完し合っているのだ。ナラティブだけを見せても「それで?」だろう。ではロジックが最重要かというとそうでもない。