ビジネス

2022.12.27

スタンフォード生は、毎週人生を語る 日本人学生が見た「起業文化」

撮影=高梨良子


これは、経営大学院の卒業生何名かが資金を拠出し作ったファンドです。毎年、選抜された学生が

・トレーニングを受け
・仮説形成とソーシング(投資先を見つけ、交渉する)を行い
・ファンドの投資委員会へピッチし
・通れば実際に投資

を受けられる。

起業家側からすると「スタンフォード大学と組める」魅力があります。例えば、教授にアプローチできたり、学生の採用チャンスが生まれたりします。学生にとってはシリコンバレーエコシステムを探る口実であり、似た投資テーマに関心を持つ同期と未来について夜な夜な議論できる機会です。私も応募し、先日無事入り込めました。

※インパクト投資:財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動

「夜9時から、人生を語り合う」


スタンフォードに来て気づいた事なのですが、起業支援プログラムやシリコンバレーとの接点と同じくらい、あるいはそれ以上に大切にされているのが、お互いの人生ストーリーを共有する場です。

毎週夜9時から、学生が自分の大切にしている価値観やその醸成の経緯について45分のスピーチをする「TALK」という集まりがあります。これは学生の自主開催で続けられている経営大学院の伝統の集まりだそうです。ここに毎週、同級生の半数を超える250人近くが集まり、一人もスマホを開くことなく真剣に話を聞き、最後は全員立ち上がって拍手喝采で終わります。感情を共有してくれた事に感謝し、互いの挑戦を応援し、刺激を与えあいながら、高い目標を目指すコミュニティを作っています。

しばらくして気づいたのですが、このTALKでは、スタンフォードの入試エッセイとして有名な問いである”what matters most to you and why?(あなたにとって最も重要なことは何ですか?そしてそれはなぜですか?)”が中心にして語られていることが多いなあと。スタンフォードの経営大学院では、この問いが全学生の価値観として通底しているのでしょう。

こうした場での内省の繰り返しと、巨大ビュッフェでの試行錯誤の末に、スタンフォード生はそれぞれの「人生のミッション」を見出し、具体的な変革行動へと強く踏み出していくのだと思います。実はスタンフォード発の起業とは、こうしたプロセスを経て、一部の学生にとっての「人生のミッション」として生まれているのでしょう。このことは、ここに来てみないとわからなかったことだなあと思っています。

──高梨さんが興味を持たれている食の分野は、新設されたサステナビリティ学部とも親和性があるのではないでしょうか。

興味を持っていて、新学部初の講座となるサマープログラムにも参加し、気候変動問題の複雑さを体感しました。

サステナビリティ学部の狙いは2つあります。一つは工学部、法科大学院、経営大学院など学部の枠を取り払って議論すること。スタンフォードは学際的な活動を重視していますが、この学部は「サステナビリティ」という課題を学部名に掲げることで、学問的境界を越え、学際的活動を一層高めようとする意図があります。

もう一つは学部そのものがアクセラレータの役割を担うということです。スタンフォード大学の基礎研究を学術界にとどめず、実践して社会にインパクトを与えることに重きを置いています。

──今後の展望は。

日本人であることを活かして世界に貢献しようと思っています。日本は「課題先進国」として、世界よりも早く課題に直面する先例になると考えています。そんななかで私は、新しい「都市インフラ」「サプライチェーン」「食」等に関する問題を解決するためにどうすべきか。インパクトを最大化する方法を考えたいです。

取材後記


スタンフォードは全米No1の起業率を維持し続けています。しかし、キャンパスで学生と話をすると、起業する学生は一部にすぎません。それでもほぼ全員から、社会を変革し前に進めようとする、強い意志を感じます。実際に行動している人も多くいます。その強い意志と行動(イニシアティブ)の一部が起業に繋がっているのだと理解できます。

そしてそうした強い意志や行動が生まれる背景に何があるのか。高梨さんのお話のこの部分から、その神髄が理解できたように思いました。

“内省の繰り返しと、巨大ビュッフェでの試行錯誤の末に、スタンフォード生はそれぞれの「人生のミッション」を見出し、具体的な変革行動へと強く踏み出していくのだと思います。実はスタンフォード発の起業とは、こうしたプロセスを経て、一部の学生にとっての「人生のミッション」として生まれているのでしょう。”

高梨さんご自身の人生ストーリーもまた、カルフォルニアの抜けるような青空の下でお聞きしていて、胸に迫ってきました。高梨さんがこの先にみつける人生のミッションは何で、未来創りにどう踏み出すのか。将来がとてもとても楽しみです。


高梨遼太朗(たかなし・りょうたろう)◎東京大学大学院(都市工学科)修了(日本建築学会、及び都市工学科優秀修士論文賞)三菱商事にて穀物トレーディング・海外事業会社での戦略立案・培養肉の事業開発等を担当。2022年にスタンフォード大学経営大学院に留学





文=芦澤美智子、尾川真一 編集=露原直人 撮影=高梨良子

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