パフェに合わせて提案されるオリジナルカクテルも興味深い。
『イチゴの花畑パフェ』とのペアリングにはアマレットリキュールとジンジャーエールを合わせた「アマレットジンジャー」を提案いただいたが、このペアリングもまた、しっかりとデザインされている。アマレットの持つ甘い芳香が、パフェに使われているアマレットムースと同調するのは想像がつくのだが、パフェの主役であるイチゴとも驚くほど相性が良い。
パフェとアマレットジンジャーのペアリング
実はこれには理由がある。アマレットの原料であるアンズの種の香りの主成分は「クマリン」というものだが、これは桜の葉に代表される植物の芳香成分の一種。バラ科サクラ属の植物には必ずこの成分が含まれているが、苺ももれなくこの分類に入っている。つまりカクテルにもパフェにも「クマリン」の芳香を感じることができるため、双方が違和感なく溶け込んでいくのだ。
両者を交互に味わうと、郷愁を誘う甘美な香りが見事に同調すると同時に、ジンジャーエールの爽やかさとほろ苦さが複雑味を与え、スッキリとした余韻へと導いてくれる。美味しさには理由があり、その背景にはパティシエの並々ならぬ探究があることを思い知らされた。
とっておきのスイーツを通して伝えたいこと
美味しさを生み出すおおもととなる食材は、どのような観点で選んでいるのだろうか。
「美味しさは一過性のものではなく、持続させていかなくてはいけないというのが我々のモットーです。そして、美味しさを生む過程で誰かが不幸になってはいけなくて、皆の幸せを追求する、そういうサステナビリティを目指しています」と林氏。
値段が多少高くても、国産でトレーサビリティのしっかりしているものやフェアトレードの商品を選ぶことで生産者がより豊かになり、食べ手にパフェが届くまでに介在する全ての人々に幸せを与えることを目指しているという。
加えて、プレイヤー(店舗スタッフ)にとっての持続可能な環境を目指している点にも注目したい。同店で供しているパフェは芸術性が高く、調理に高度な技術を要すると思われがちだが、実はレシピを見れば誰もが作れる再現性の高いものなのだそう。そうすることで雇用面での安定をはかり、皆が安心して働けるようなビジネスモデルを実現しているという。
店舗を後にして渋谷のネオンの中、非日常のパフェ体験の余韻に浸る。クラシカルなものに敢えて疑問を持ち、既存のものを「リメイク」することで、皆が幸せになれる新しい仕組みを生み出していく……。自分自身のビジネスにおいても何か大切なヒントを得た気がする。口中に残る、苺とアマレットの甘美で儚いフレーヴァーを感じながら、足取り軽く帰途についた。