帰国後は国内トップパティシエがいる東京のケーキ屋で経験を積み、2018年に『ルクサルド グラン プレミオ』洋菓子コンクールで最年少での3位を獲得。その後は最新のテクノロジーを駆使する「フードテック」と言われる技術や「食のIT化」を探究するなど、業界の最先端を走り続けている。
彼のテーマは「美味しさをデザイン」すること。素材の魅力を最大限に引き出すためには、今ある調理法に拘らず、新しいアプローチに挑戦し続け、クラシカルな製法をリメイクしていく必要があるのだという。その哲学が「Remake easy」という店名に繋がっているのだ。
エントランスに掲げている『Remake easy』のロゴ
緻密に設計された禁断のパフェ
林氏が生み出した禁断のパフェをさっそく実食してみた。同店では季節の食材を用いたシーズナルなパフェも人気だが、今回味わったのは定番メニューである『イチゴの花畑パフェ』だ。
グラスのトップにあしらわれた苺の紅色とナデシコのピンク色、仕上げに散らされた銀箔がカウンターのスポットライトに照らされて、鮮やかに目に飛び込んでくる。側面を見ると、苺に加えてホワイトチョコレートのムース、バニラアイスクリーム、アマレットムース、クランブル、フランボワーズのジュレが絶妙なバランスで重ねられ、芸術的な層が描かれていた。
サイドから見る『イチゴの花畑パフェ』
しかし、このパフェの構成は決して見た目の美しさだけを狙ったものではない。盛り付け方やグラス、スプーンの形状によって、ゲストがパフェを食べていく順番(ストーリー)がしっかりコントロールされているという。
例えば、最初に口にする苺は、スプーンに半分しか乗せられない。それを食べた時の酸味や水分量、苺の側面に付着するホワイトチョコレートムースや底辺のアマレットムースのボリューム……それらを全て考慮しながら味わいを「デザイン」している。さらには、食材の温度差やアルコールの揮発性をも上手く活用しているという、驚くほど計算されたパフェなのである。
計算されたワンスプーン
その設計図に導かれ、一口ずつ食していくと、味わいのストーリーが立体的に膨らんでくるのが分かる。最初の一口では、ジューシーな甘さと心地よい酸、ムースのリッチなフレーヴァーとのバランスを楽しむことができ、しばらく食べ進めていくとクランブルのサクサクした食感と香ばしさが加わってくる。ラスト近くにお目見えするのが、やや酸味が効いたフランボワーズのジュレだ。
もう食べ終わってしまうという切なさもあってか、ジュレの一口毎に充足と哀愁が交互に脳裏に押し寄せる。林氏によると、最後を酸味で締めくくることで、食べ手に「また食べたい」という欲求を与えることができ、再訪に繋がるのだという。