「ほかの風邪やインフルエンザと同じようにコントロール可能な季節性の感染症、エンデミックになるだろう」と説明するのは世界保健機関(WHO)本部感染症危機管理シニアアドバイザーを務める進藤奈邦子だ。
感染症の流行は、主に同じストーリーをたどる。猛威を奮ったあとは弱毒化して広範囲に広がるというものだ。
「2002年に発生し、世界に広がった強毒のSARSも同じコロナウイルスだが、弱毒化して人為的な介入で消滅した。新型コロナウイルスはSARSよりも出現から驚くような速さで進化、順応してきた。ワクチンや自然感染で人々が免疫を獲得したことも軽症化に寄与している」。
今後、強毒化した株が現れ、医療や社会経済の危機を引き起こすような可能性はないのだろうか。
「基本的には弱毒化する流れだが、万が一、突然変異で強毒な株が出現したとしても、新型コロナウイルスは感染拡大防止策や治療薬があり、もう未知の感染症ではない。そういったことを踏まえると大規模な健康被害を起こすは考えにくい」と進藤は指摘する。
一方で、M痘(旧サル痘)の流行といった、新しい感染症の危機の芽は次々と起きている。進藤によれば、「大規模感染症の勃発の頻度は5年に一度」。
コロナのパンデミックの収束を喜んでいるうちに、新たな感染症の脅威が生まれている可能性が高い。
「WHOでは、ウェブ情報や各方面の諜報活動により次の脅威となる感染症の芽を注視している。1年間に140ほどだったのがここ数年で300以上に以上増えた。これは、サーベイランスの精度や診断技術の向上も貢献しているが、気候変動や森林破壊、紛争や干ばつによる大量の人口移動、都市化や環境汚染などが進めば進むほど、感染爆発のリスクは高まる。今後もそのリスクは増えていくだろう」
次のパンデミックに向けて、日本はどのような対策ができるのだろうか。「国や、製薬企業や医療関係の企業だけでなく、さまざまなセクターの貢献や協力が期待される」と進藤は言う。
日本は治療や診断技術は世界でもトップクラス。保健所機能の充実や国民の健康知識や衛生行動も特筆に値する。発酵大国でもあり、微生物の、健康や感染症分野への有効活用のR&Dでも貢献できる。
そしてもうひとつのポイントがコミュニケーションだ。「新型コロナでわかったのは、コミュニティのつながりや若者同士の連帯といったコミュニケーションが大切だということだ。同じ業種や地域で集まって実施したワクチンの集団接種はいい例だ。感染症だけでなく自然災害といったリスクに備えるためにも、常日頃からのコミュニケーションができる関係性づくりが重要になるだろう」。
しんどう・なほこ◎1963年、大阪府生まれ。東京慈恵会医科大学卒、専門は内科学、感染症学。英国セントトーマス病院、オックスフォード大ラディクリフ病院、国立感染症研究所などを経て、05年にWHO職員に。18年より現職。