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2022.12.21 08:50

世界的人気の高まるゴルフ界が大分裂。老舗PGAと新参者LIVの仁義なき戦い

写真=Getty Images

安心・安定の米プロゴルフ「PGAツアー」の前に現れた挑戦者「LIV招待」。PGAの伝統とブランド、LIVの膨大な資金力。両者が共存する道はあるのか。

新しいプロゴルフツアーの「LIV招待」と、世界最高峰の「PGAツアー」の間で選手を巡る争いが激化している。女性人気が高まり、途上国で愛好者が増えているゴルフは、商業面で将来性が高い。PGAの未来、そしてLIVの皮算用やいかに?


サウジアラビア政府系ファンドが資金を提供する、6200億ドル規模の新しいプロゴルフツアーの「LIV招待(LIVは54のローマ数字表記)」には、いくつもの際立った特徴がある。まず、対立しているPGAツアーより短期間の3日間54ホールのショットガン方式。ティーオフ前の会場に流れる大音量の音楽。一般的な大会の6分の1にとどまる試合数。そして、桁はずれの超高額賞金である。

サウジアラビア政府は、今後の数シーズンに推定24億ドルを注ぎ込む予定で、その多くは有名選手へのオファーに充てられる。LIVの登場により、世界で最も稼ぐプロゴルファー10人の賞金が、5月の開幕戦以降、総額で推定3億7000万ドル増え、過去最高の6億5000万ドルに達した。

「(LIVの立ち上げに)最初からかかわりたかった」と、20年にUSオープンを制し、6月にLIVに移籍したブライソン・デシャンボー(29)は語る。

「豊かなリソースと時間をはじめとするもろもろの要因、それに楽しんでプレイできることもあって移籍したいと思い、移籍を決断できました」

デシャンボーがLIVから受け取る保証金が推定1億2500万ドル以上(フォーブスの見立てでは、その半額を前金として受領済み)だと聞けば、わかりやすいだろう。前金6200万ドルを受け取ったことで、過去12カ月間の税引き前所得が総額8600万ドルとなった彼は、フォーブスの「世界で最も稼ぐプロゴルファーランキング」で3位に躍り出た。

とはいえ、“代償”もある。もう二度とPGAツアーにも、プレイヤーズ・チャンピオンシップにも、ライダーカップでの団体戦にも参加できない。PGAツアーから離反したほかのすべての選手同様、デシャンボーもPGAのメンバー資格をはく奪された。ただし、LIVに転じた選手たちも、マスターズやほかの3つのメジャー大会にはこれまで通り参加できる。いずれもPGAツアーの運営ではないからだ。

メジャー大会で2度の優勝経験をもつダスティン・ジョンソン(38)の昨年の収入は、LIVとの契約金推定6200万ドルを含め、9700万ドルに上る。LIVへの参加は「悩むまでもなかった」と彼は話す。

「これまでよりも少ないプレイでより多くの賞金を稼げるのだから、こちらを選びました」

最大の勝者が誰かといえば、それはフィル・ミケルソン(52)だろう。6度のメジャー制覇と45回のPGAツアー優勝を誇るミケルソンの成績は、同世代ゴルファーの中で2番目に位置し、LIV参戦をいち早く表明した選手のひとりだ。


写真=Getty Images

ただし、リスクはある。運営会社のLIVゴルフは米国の三大テレビ局のいずれとも提携しておらず、スポンサーも確保できていない。LIVを観戦するならYouTubeしか手段はない。収入が限られているなか、選手との莫大(ばくだい)な契約金と大会当たり数百万ドルの運営予算に加え、LIVは22年の賞金として2億5500万ドルを保証している。23年の賞金総額は14大会で4億500万ドルに増やす予定である。

「どんなスタートアップでも、起業したては利益が出る前に資本金を消費する」と、LIVゴルフ社長のアトゥル・コースラは出費を意に介さない。
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文=ジャスティン・バーンバウム、ブレット・ナイト 写真=コーディー・ピケンズ 翻訳=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.099 2022年11月号(2022/9/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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