ビジネス

2022.11.28 16:30

金融業界の破壊者ストライプ。年間6400億ドルを決済処理する兄弟

ジョン・コリソン(左)とパトリック・コリソン(右)/Getty Images


コリソン兄弟の両親は、エンジニアの教育を受けていたが、南部のティペラリー県の湖畔でホテルを経営していた。兄弟はそこで、多言語で授業を行う学校に通い、家ではアイルランド語とコーディングを学んだ。中等教育は、同じく南部のリムリック県の学校で受けたという。
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パトリックは16歳のとき、若い科学者のための有名な全国コンテストで優勝した。マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発したプログラミング言語のLispを発展させた彼のプロジェクトは、EU全域のコンテストでは準優勝した。コンテストの間、Lispに関する書籍の著者である技術者ポール・グレアムと連絡を取り合っていたパトリックは、1年後の06年にMITに入学すると、ジョンとともにグレアムが運営するスタートアップ企業のアクセラレータ、Yコンビネータに応募した。

コリソン兄弟の事業アイデアは、イーベイの出品者用の追跡ソフトウェアだった。ふたりは自分たちでこのソフトウェアを開発するのではなく、同様のアイデアで参加していた別の兄弟と手を組んだ。4人が翌年、この事業を500万ドルで売却したとき、ジョンはまだ中等教育課程にいた。ジョンは09年に兄の後を追ってマサチューセッツ州のケンブリッジに移り、ハーバード大学に入学。そして兄弟はウェブサイトにクレジットカード支払い対応機能を追加しやすくするAPIを書くというアイデアを思いつく。

APIとは、アプリケーション・プログラミング・インターフェース。ソフトウェア開発を舞台裏で支える短いコードのことだ。Yコンビネータはこのアイデアに投資してくれたが、この会社の事業アイデアをコリソン兄弟がYコンビネータのデモ・デーでプレゼンすることはなかった。ふたりが後にストライプとなるこのツールを公式に発表したのは、その1年後。大学を中退し、ブエノスアイレスに移り住んでいたときで、発表の場はコーヒーショップだった。
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このAPIは成功し、ふたりの異色の経歴や「ペイパルが途中でやめたことの続きをやる」というパトリックの約束は、自身もウェールズからの移民であるセコイア・キャピタルのマイケル・モリッツの心をつかんだ。10年、モリッツはストライプのシードラウンドに投資。ペイパル出身のビリオネア、マックス・レヴチンとピーター・ティール、イーロン・マスクも、このときに投資している。モリッツはその後も、12年にストライプの1800万ドルのシリーズA投資ラウンドを主導した。

初期ユーザーを獲得するためコリソン兄弟がピッチで用いた手法は、Yコンビネータで「コリソン流インストール」として語り継がれている。それは、その場でユーザー候補のノートパソコンを手に取り、ストライプを設定してしまうというものだった。

ストライプは12年に2つ目の大型製品「ストライプ・コネクト」を発表。Eコマースプラットフォームのショッピファイや配車アプリのリフトといった、初期の顧客の飛躍的な成長を支える製品で、出店者やドライバーへの支払いを容易にするものだった。程なくして、アマゾンやウェイフェア、インスタカート、ポストメイツといったほかの企業も、この製品を利用するようになった。

「ストライプは、Eコマース系フィンテックへの投資を整理する手段になりました」

初期の投資家のイラッド・ギルはそう語る。

「あらゆるスタートアップ企業に投資する代わりに、ストライプにだけ投資すればよくなったからです」
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文=アレック・コンラッド 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

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