ストライプの製品開発は、最近はなかなか一筋縄ではいかなくなっている。複雑な規制や製品の戦略的な価値、顧客のニーズの緊急性などを掛け合わせて考慮しなければならないからだ。
「コツがいるんです。事情が変わったら、意見も変えなければなりません」(ジョン)
「最終的に重要なのは、顧客に役に立つと思ってもらえるかどうかだけです」(パトリック)
それは主に、ストライプの研究開発チームをサービスの実用面の充実に集中的に取り組ませることを意味する。そして、この規模の企業にしては異例だが、ストライプではいまも従業員の40%以上がエンジニアなのだ。彼らは、決済サービスを提供する国を増やしたり、新たに発表したアプリストアを改良したりし、新たに登場する他社製品に目を光らせ、それに対抗できる製品をつくらなければならない。
例えばストライプが1年以上前に提供を開始したワンクリック支払い手続きツール「リンク」は、マイアミのスタートアップ企業ボルトの商品と直接競合する。ボルトは最近の資金調達を経て評価額が110億ドルとなり、創業者のライアン・ブレスローはビリオネアになった。
ブレスローは、ストライプと、自分を合格させなかったYコンビネータを、シリコンバレーを牛耳る「マフィアのボス」だと公然と非難している。ブレスロー自身も、先日のニューヨーク・タイムズ紙の暴露記事によって自社の財務に関する誠実性が疑問視されているが、ストライプの真意に不信感を抱いているのは彼だけではない。
マクロ的な経済状況が最悪の事態に陥れば、今年のストライプはこれまでほど成長しないかもしれない。だが、それでも人々は買い物をするし、事業を経営する人々はストライプを必要とするだろうとジョンは語る。20年にゼネラル・モーターズ(GM)からストライプに入社したCFOのディビア・スリヤデバラは、ソフトウェア開発に必要な資本は自動車製造などに比べてはるかに少なく、この点は経済環境が悪化した場合には好材料となると説明する。
ジョンは街のパブに腰を落ち着け、ギネスを飲みながら、兄弟にとって大切なもうひとつの大義について語った。気候変動問題だ。ストライプは先頃、アルファベットやメタなどの企業を結集させ、今後、約9億ドル相当の二酸化炭素回収事業を進めると宣言した。彼は、兄弟がよくプライベートジェットで移動していることには触れなかったが。
パブの地元客たちは、若いテックビリオネアを気にも留めていなかった。だが、ジョンが勘定を払いに行き、現金で払いたいと告げると、バーテンダーは片眉をつり上げて言った。
「皮肉なもんだね!」
パトリック・コリソンとジョン・コリソン◎アイルランド南部で、エンジニア教育を受け、ホテルを経営する両親の下で育つ。コーディングは家で学んだ。パトリックは2006年に米マサチューセッツ工科大学に入学。09年にはジョンがハーバード大学に入学。ふたりはウェブサイトのクレジットカード支払い対応機能を追加するAPIを思いつき、これがストライプとなった。フォーブスは兄弟がそれぞれ、ストライプ株の約10%、資産95億ドルを保有すると見ている。
ディビア・スリヤデバラ◎2020年10月、ストライプの最高財務責任者(CFO)に就任。前職はゼネラルモーターズ(GM)のCFO。年間売り上げ1000億ドル超の米国自動車大手で、戦略的なビジネスの変革を推進してきた手腕を、ストライプで振るうことを期待されている。インドのマドラス大学卒業、ハーバード大学でMBA取得。