VC自らが科学者を多数雇い、用途と実現性について仮説検証したうえで、スタートアップを設立。そこに人材やアライアンスを持ってくる、ハンズオンを遥かに超えたやり方です。
今回は、小柳智義博士(京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構(iACT)ビジネスディベロップメント部門 特定教授)への取材に筆者の調査を加味し、ベンチャークリエーションの具体例を解説していきます。
9兆円企業モデルナはいかに生み出されたか
「ベンチャークリエーション型VC」の代表格フラッグシップ・パイオニアリングは、米モデルナ社を含む100以上のスタートアップを共同創業し、1兆円に迫るファンド規模で投資・事業育成の活動をしています。
2010年創業のモデルナは、2012〜18年に計17億ドル(約2400億円)を資金調達し、2018年に株式上場。バイオテックのIPOでは史上最大の企業価値76億ドル(約1兆円)となりました。
2022年11月24日現在、約9兆5000億円にも上る時価総額に成長し、ワクチンなどさまざまな医薬品を15種ほどの用途で臨床試験中です。
小柳教授は、ベンチャークリエイションの成功例として挙げていますが、当初はワクチンという言葉は見当たりません。
では、このバイオテックの大成功企業は、どのようにして生まれ、育ったのでしょう。
まず、mRNA(メッセンジャーRNA)を研究するデリック・ロッシハーバードメディカルスクール助教が、ハーバード大学の(既に成功した起業家でもある)ティモシー・スプリンガー教授にエンジェル投資を相談。
これに(100名を超えるラボを持つMIT教授、起業への参画経験多数の)ロバート・ランガー博士、ベンチャースタジオのフラッグシップ社(後に Flagship Pioneeringとなる)らが加わりました。
起業準備段階でランガー博士は、mRNAをiPS細胞に適用することを提案しました。しかしフラッグシップ社は、他の用途の可能性もあると考え、数カ月間ラボで検討し、2010年に共同創業されました。この検討が、ワクチンを含む様々な用途につながりました。
その後、追加投資を含む資金調達、CEOをはじめとした人材獲得、アライアンスなどのサポートをして、今日に至ります。フラッグシップ創業者ヌーバー・アフェヤン博士は、現在もモデルナの会長です。
米国では起業経験も資金もネットワークもある大学教員が数多くいます。また、大学間の垣根を超えてつながり、活動しています。
特にボストンやシリコンバレーでは、このようなスタートアップ・エコシステムが充実しています。
ですがモデルナは、元の研究者のアイデアや経験ある有名教授のアイデアから生まれたわけではありません。特質すべきは、多様なアイデアについて、VCのラボで科学者を投入して用途の可能性を集中検討したということです。