民の心をつかんだ鷹山のように、リサイクルを文化に根付かせる

CEOがすすめる一冊「小説 上杉鷹山」

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、JEPLANの岩元美智彦が「小説 上杉鷹山」を紹介する。


主人公の米沢藩9代藩主、上杉鷹山は、幼少のころに上杉家の養子になった後、17歳で藩主を継ぎ、巨額の借金を抱えた米沢藩の財政を立て直すために人件費を削減したり、産業の育成に働きかけたり、学問を振興したりとさまざまな対策に取り組みました。

彼の言葉「なせば成る、なさねば成らぬ何事も、成らぬは人のなさぬなりけり」は誰もが耳にしたことがあるはず。本書は、鷹山を描いた小説であり、組織づくりや人の心の動かし方など、経営に欠かせないマネジメントについて書かれたビジネス書という一面ももつ一冊です。

25年ほど前、繊維商社に勤務していた私は、日本国内だけでも年間約170万トンもの繊維製品が廃棄されていることや、そのうちの8割が焼却、または埋め立てられていることを知り、これを何とかしなければという使命を感じていました。

同時に、容器包装リサイクル法が施行されたものの、ペットボトルの回収率はなかなか上がらず、法律ができたところで人々の意識は簡単に変わらないのだということも目の当たりにしていました。

では、一刻でも早く「循環型社会」をつくるにはどうしたらいいのか──。そんな私の思いを知っていたのか、職場の先輩が「いい本があるから読んでみろ」と本書を薦めてくれました。

そして2007年に現代表の高尾正樹とともに日本環境設計(現JEPLAN)を設立し、ポリエステル繊維を分解・精製して、石油由来の樹脂と同品質のポリエステル樹脂を製造する独自のケミカルリサイクル技術「BRINGTechnology」を開発しました。この技術はポリエスエル素材からポリエステル素材を生み出す水平リサイクルの技術であり、何度でも繰り返しリサイクルできるため、資源の循環が可能です。ゴミとされていたものを資源に再生できるため、人類が繰り返してきた石油資源の奪い合いを止め、平和な社会を実現することができる技術だと自負しています。

現在、自治体やグローバル企業にもご賛同いただき、回収拠点からリサイクルまでのインフラを地球規模で構築。再生素材を生かしたアウトドアアパレル「BRING」も展開しています。また、子どもたちにリサイクルを意識づける活動も継続。これは、鷹山が仲間とともに藩士や藩民の「心」を改革していったように、リサイクルを「文化」として根付かせるための私の大事なライフワークです。

この書評を寄稿するにあたり、久しぶりに本書を読み返し、鷹山の教えが私の軸になっていることに気づかされました。そして、本書を薦めてくれた先輩が、いまでも叱咤激励してくれることに心から感謝しています。

title/小説 上杉鷹山
author/童門冬二
data/学陽書房 上・下巻各726円/376(上)352(下)ページ


いわもと・みちひこ◎1964年鹿児島生まれ。北九州大学卒業後、繊維商社に入社。95年の容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年に現代表取締役社長高尾正樹とともに日本環境設計(現JEPLAN)を設立。

童門冬二◎1927年生まれ。旧制中学卒業後、予科練に入隊。終戦後は東京都庁に入庁し、都立大学で事務職を歴任。79年に退職し作家へ。主な著書に『新撰組山南敬助』『吉田松陰(上・下)』『徳川家康の経営学』など多数。小説以外にも、歴史上の人物と処世術やビジネスを掛け合わせた書籍も多い。

文=内田まさみ 写真=タワラ

この記事は 「Forbes JAPAN No.087 2021年11月号(2021/9/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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