「地球」主語の視点。マイクロモビリティへの思いが強固に

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、Luupの岡井大輝が「地球の未来のため僕が決断したことー気候大災害は防げるー」を紹介する。


ビル・ゲイツが20年ぶりに刊行した本書は、彼が得意とするテクノロジーやビジネスに関するものでもなければ、尽力してきた貧困問題でもなく、「地球環境の危機」がテーマだったことで話題となりました。気候変動の深刻さや問題を提起するだけでなく、それを解決するための技術や市場、政府、市民の役割までを論理的にまとめ、なおかつとても読みやすく解説しています。

衝撃を受けたのは、温室効果ガスの排出量をゼロにするしか我々の生き残る道はないということ。現状では、年間およそ510億tが排出されている温室効果ガスをゼロにしなければ、気候変動の最悪の影響を避けることができないと指摘しています。

Luupは、世界に先駆けて日本が抱えている課題を解決するために立ち上げた会社です。創業当初は、家庭の介護活動をお手伝いする「介護士版Uber」に取り組みましたが、東南アジアなどのように交通インフラのライドシェアが発展していない日本にはなじまず、断念。

その後、少子高齢化の進行に伴って衰退する地域公共交通に代わる、新たな交通インフラを構築するため、「電動マイクロモビリティのシェアリング事業」を開始し、現在、東京・横浜・大阪・京都において電動アシスト自転車と電動キックボードを用いたシェアリングサービスを展開しています。

将来のまちづくりの一環として導入したこの電動マイクロモビリティは、世界の都市では二酸化炭素排出量が少ない乗り物だと注目を集め、新しい移動手段として急速にシェアが拡大しています。

しかし、本書を読んで考えさせられたのは、我々が提供している電動マイクロモビリティを動かす電気はどうやってつくられているのか。移動に関係する温室効果ガスの排出量をゼロにするためには、上流の工程も意識をしたインフラづくりをしなくてはいけないのではないか──といった疑問でした。

ビル・ゲイツが指摘する、ゼロにすべき温室効果ガス510億tのうち、移動することで排出されているのは約16%です。世間はわかりやすい排出の最終段階、つまり下流の削減しか目標においていないように感じます。

排出量をゼロにするという高い目標設計は、そこから逆算して必要な未来像とプロセスを検討し、他企業や政府と協力しなければ、この16%分の削減すら実現しないでしょう。そして、その取り組みは、我々の大きなチャンスになるはずです。

経営者は「地球」を主語とした目標設定を行い、会社や社員を正しく導くことも重要な役割だと再確認させてくれたのも本書でした。これからも時折、読み返したい一冊です。

title/地球の未来のため僕が決断したこと─気候大災害は防げる─
author/ビル・ゲイツ(訳 山田 文)
data/早川書房 2420円/336ページ


おかい・だいき◎1993年生まれ。東京大学農学部を卒業後、戦略系コンサルティングファームを経て、2018年にLuupを創業。シェアサイクルサービス「Luup」の提供を開始。現在、都内、大阪市など国内各所でサービス拡大。2021年4月には「Forbes 30 Under 30 Asia」に選出。

ビル・ゲイツ◎2000年以降ビジネスの第一線と距離を置き、20年にはマイクロソフトの取締役を退任。ビル&メリンダ・ゲイツ財団での慈善事業を主とする。同財団は、目標とする医療や貧困、社会問題の解決と進展のため、その存続期間が決められているという徹底した取り組みと活動で知られる。

文=内田まさみ 写真=タワラ

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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