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2022.11.19 08:50

企業にはロシア撤退の「道義的責任」がある

ビル・ブラウダー(Photo by Luke MacGregor)

ビル・ブラウダー(Photo by Luke MacGregor)

2022年に起きたロシアによるウクライナ侵攻に対し、企業はどのように向き合うべきか。機関投資家であり、ベストセラー作家でもあるビル・ブラウダーの答えは。


1990年代後半にロシアでヘッジファンドを創業し、ロシア最大の外国人投資家として名をはせた米国出身のビル・ブラウダー。現在は英ロンドン在住の機関投資家にしてベストセラー作家・人権活動家という、いくつもの顔を併せもつ。

かつて対ロシア投資で大成功を収めたブラウダーだが、オリガルヒ(ロシアの新興財閥)などの不正を次々と暴き、2005年にロシアから追放。その後、ロシア政府絡みの巨額横領事件を告発した、彼のファンドの顧問弁護士セルゲイ・マグニツキーが2009年にロシア国内の拘置所で殺されたことに反発。ブラウダーは、人権侵害者の米国内資産凍結などを定めた米「マグニツキー法」(2012年)の成立に尽力した。だが、その結果、プーチン大統領の「最大の敵」として、命を狙われる身に。

2015年の『国際指名手配─私はプーチンに追われている』(集英社、山田美明・笹森みわこ・石垣 賀子訳)に続き、最新刊『Freezing Order:A True Story of Money Laundering, Murder,and Surviving Vladimir Putin’s Wrath』(『フリージング・オーダー<資産凍結命令>─資金洗浄と殺人、生き延びたウラジミール・プーチンの怒りをめぐる真実の物語』未邦訳)も、たちまちベストセラーに。

対ロ経済制裁について、「企業には、ロシアから撤退する『道義的責任』がある」と言い切る彼にオンラインで話を聞いた。

──これまで何回も、プーチン大統領に身柄を拘束されそうになったのですよね。

ビル・ブラウダー(以下、ブラウダー):ロシア政府が国際刑事警察機構(ICPO)に働きかけ、8回、逮捕されそうになった。2017年にはスイスのジュネーブで拘留され、その翌年にはスペインのマドリードで、警察署に連行された。

また、プーチンは2018年7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でトランプ大統領と会談し、私の身柄引き渡しを求めた。最近も、英情報機関から連絡を受けた。スイス警察は2年前、私がダボスを訪れる際、ロシア政府による暗殺計画を未然に防いだという。

だが、おびえながら暮らしているわけではない。高リスクに晒されているが、プーチン批判の手を緩めるつもりはない。一歩も引かない構えだ。

──このオンラインインタビューも盗聴されていますか。

ブラウダー:たぶん。まあ、何とも言えないが。でも、心配するな。君は安全だ。

──4月9日付ニューヨーク・タイムズのインタビューで、「すべての企業には、どのような代償を払ってでも、ロシア撤退の道義的責任がある」と話していますね。

ブラウダー:ロシアでの事業継続は、プーチンがウクライナで行っている残虐な戦争の間接的な支持につながる。ロシア政府に納税すれば、彼に手を貸すことになるからだ。どの企業にも、ロシアから投資を引き揚げ、プーチンにいかなる便益も提供しないように努める「道義的責任」がある。

私がそうした強固な考えに行き着いたのは、プーチン政権がいかに犯罪的行為に手を染めてきたかを目の当たりにしてきたからだ。私の弁護士マグニツキーが殺され、プーチンが殺害隠蔽に加担するのを見てきた。

そして、私が経験したようなことが何百万倍にもなってウクライナ国民に降りかかっている。犯罪的行為に走る政権に対応する道はひとつしかない。ボイコットし、孤立させることだ。
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文・インタビュー=肥田美佐子

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