ビジネス

2022.11.19 08:50

企業にはロシア撤退の「道義的責任」がある


「正しい行い」を求める


──「ロシアで事業を続けることは、ナチス政権下のドイツで事業を続けることと同じだ」と、前出の記事で語っていますね。一部の企業は、なぜ道義的責任や評判を犠牲にしてまで事業を続けるのでしょう?

ブラウダー:お金のためだろう。市場は、そうした企業をボイコットすべきだ。確かに撤退は厄介な問題だ。利益の断念にとどまらず、大規模なコストが生じる場合もある。だが、どの企業も、ロシアが危険な場所であることを承知のうえで、事業を行っていたはずだ。ロシアがウクライナに侵攻した以上、コストを払ってでも撤退すべきだ。

──「道義的責任」という力強い言葉に込められた、あなたの企業観とは?

ブラウダー:企業は、株主や従業員、顧客、自国政府に責任を負っている。ロシアでの事業継続は、彼らとの契約違反につながる。大半の顧客は、撤退を拒む企業との取引を望んでいない。多くの株主は、利益が減っても、企業に「正しい行い」を求める。企業のパーパス(目的)は、ルールや価値観、社会的期待に沿って事業を行うことだ。

──今後の戦況をどう予測しますか。企業は、地政学の変化にどう向き合うべきでしょう?

ブラウダー:近いうちに停戦するとは思わない。プーチンに後退や妥協の意思はない。(1980年秋から約8年続いた)イラン・イラク戦争のように長引くのではないか。企業は、独裁政権の国々にかかわることの危険性やリスクの大きさを理解すべきだ。国民ではなく、独裁者の意思を反映するクレイジーなことが起こりうるからだ。

──新刊に込めたメッセージは?

ブラウダー:プーチンのような国家指導者はほかにおらず、国益でなく、自分の金銭的利害だけで動くということを読者に伝えたかった。彼ほど危険で腐敗に満ちた人間はそういない。マフィアのボスのように扱われるべきだ。

──日本企業に言いたいことは?

ブラウダー:最も訴えたい重要な点は、ロシアから投資を引き揚げるべきだということだ。対ロ投資の継続は、犯罪まみれのロシア政権に対する暗黙の財政支援になる。


ビル・ブラウダー◎エルミタージュ・キャピタル・マネジメントCEO。ロシア最大の外国人投資家だったが、自身の弁護士がロシア警察の拘置所で殺害された2009年以降、ロシアで頻発する汚職や人権侵害を暴露、告発する世界的運動に携わる。著書に『国際指名手配』など。

文・インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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