この問題を解決するために、例えばダボス会議を主催する世界経済フォーラム(WEF)では、ESG経営を共通基準で測定できる「ステークホルダー資本主義メトリクス」を提言している。世界同一基準でESG経営のパフォーマンスが比較できる点を特色としており、日本でもいくつかの企業が採用し始めている。まだ実験的で今後発展が期待される分野だろう。
ユニクロは、2022年7月から1カ月間限定で「JOIN: THE POWER OF CLOTHING」というキャンペーンを行った。リサイクル素材を使ったユニクロの対象商品(ブルーサイクルジーンズなど)を買うと、その売上の一部(100万ドル、約1億3000万円:2022年7月時点)が日本財団に寄付され、「海洋ごみ」を減らす活動に生かされるというものだ。
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筆者はこのキャンペーンを自身が教鞭に立っているビジネススクール(多摩大学大学院MBA)の講義において取り上げ、クラス内でディスカッションを行った。社会人院生である彼ら彼女らは30~50代の男女ビジネスパーソンであり、ほとんどの人はユニクロのユーザーでもある。事前課題としてユニクロのHP等で情報を調べてもらい、キャンペーンを行っている実店舗を自主的に視察することも奨励した。
ディスカッションでは、海洋ごみの問題解決に取り組むユニクロの姿勢をポジティブに評価する声が多くあがった。その一方で、疑問の意見も少なからず出た。「なぜ1カ月間だけに限定するのか?わずかな期間だけでは何も変わらないのではないか?」「寄附金額が少な過ぎないか?ユニクロほどの大企業がもしこの問題を本気で解決したいと思うのならもっと寄付すべきでは?」「商品販促の口実ではないのか。期間内に対象商品の売上を増やすことが目的では?」などだ。
このユニクロのキャンペーンは、海洋ごみに対する消費者の関心を高めるという目的から理解すれば、一つの良い試みだろう。しかし、海洋ごみの問題解決に対するインパクトの点からいえば、このキャンペーン自体がどういう効果をもたらすのかが分かりにくいのは否めないだろう。少なくとも、本キャンペーンによる問題解決への貢献を判断する客観的な指標が、寄付金額の他には見えにくい。
そもそもファッション業界に対しては大量生産・大量廃棄で地球資源を無駄にしているという批判も根強い。それらを思い合わせれば、寄付金の額の少なさや期間限定の販促的な売り方などに関心が散ってしまい、全体としては中途半端に見えてしまうのかもしれない。