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2022.11.11

最強企業GEが没落した本当の原因は何か?

General Electric Company(Getty Images)


ジャック・ウェルチは、「フリードマン・ドクトリン」を地で行くような利益と株価を最大限に追求した経営を行った。当時のGEでは業績目標がまず決められ、どうやってそれを達成するかは二の次だった。目標達成に必要な数字が各事業に割り振られ、方法はどうであれ、数字を達成することが厳しく求められた。

もし実際の業績にギャップが生じる恐れがあれば、GEキャピタルが保有する不動産や企業などの膨大な資産から何かを切り売りすることで数字が作られた。そのような会計上の工夫によって、株式市場が満足する安定的な業績と高い配当を実現していた。

エジソン・コンデュイットと呼ばれる巨大な特別目的会社を使う便利な仕組みもあった。GEのバランスシートにも載っていない、外からはブラックボックスのこの企業が、GEキャピタルから資産を簿価よりも高い価格で購入しGEの利益を大きく見せていた。これらは違法とまではいえないが、透明性を欠いた会計トリックである。

実は、機関投資家やアナリストにとってもGEは長年謎の会社だったという。世界最大の債権投資会社PIMCOの共同創業者のビル・グロスは、「なぜこの会社が毎年、四半期ごとに、15%の利益成長を続けられるのか、不思議」と語っている。

ところが、2001年に発覚したエンロンの会計不祥事をきっかけに上場企業の開示情報の規制が2002年に改正された。その結果、ジャック・ウェルチの時代には可能だった会計処理を以降のGEは使えなくなった。GEキャピタルやエジソン・コンデュイットを通じた会計操作を封じられたGEは、安定的に高い業績、株価を維持することが困難になった。それをくつがえすだけの実業での成果も出せなかった。ウェルチ後のCEO達の建て直しの努力も実らず、先述の3分割の再建計画へと向かうことになる。

GEに栄華と衰退をもたらしたのは、結局どちらも同じ原因だったのではないか。それは、過度な「株主価値至上主義」だったと思わざるを得ないのである。

ユニクロ「海洋ごみ」キャンペーンの是非


近年、行き過ぎた株主資本主義を見直す「ステークホルダー資本主義」が提唱されている。株主の価値に偏重せず、顧客、社員、取引先、地域社会、地球環境といった多様な観点を取り入れ、長期的視点で企業価値を高める経営を目指すものだ。

2019年にはアメリカの有力な財界団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が株主資本主義を見直しステークホルダー資本主義へ転換する宣言を出している。ステークホルダー資本主義は世界に広がり、その流れを汲む「ESG経営」を標榜する企業も増えている。

ステークホルダー資本主義やESG経営を実践するにはまだ課題も多い。その一つとして、企業活動の目標と成果を測定する明確な指標がないことがあげられる。それらの指標は企業毎にまちまちで、しばし複雑である。この点で、株主資本主義には「利益」や「株価」というシンプルな目安がある。
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文=河野龍太

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