職場環境が従業員のメンタルをむしばむ要因に、米当局が警鐘

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長時間労働と過酷な労働環境は、労働者の精神的・身体的健康にとって有害である── 米政府のビベック・マーシー医務総監は先ごろ公表した報告書で、そう警告している。

米国は「大離職時代」と呼ばれる状況にあり、いわゆる「静かな退職(クワイエット・クィッティング、働くことと距離を置き、必要最低限の仕事しかしなくなること)」といった現象も広がっている。そうしたなかで公衆衛生当局が初めて、有害な労働環境は「人々に破壊的な影響をもたらし得る」との見解を示した形だ。

医務総監の報告書は、過重な業務量や予測不可能なスケジュール、低賃金、長時間をかけての通勤、自主性が限られていることといった職場に関連する数々のストレス要因が、労働者の健康や組織のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性について指摘。

また、ハラスメントや差別、非友好的あるいは危険な労働環境、「有害」である過酷または礼を失する、包括性を欠く職場文化は、労働者にさらなるプレッシャーをかけ、慢性的なストレスを与えることになり得ると警告している。

さらに、慢性的なストレスはうつ病や薬物乱用といったメンタルヘルス上の問題を引き起こし、睡眠を妨げ、心臓病や糖尿病、がんといったその他さまざまなリスクを高めることにつながる危険性があるとしている。

マーシー医務総監は、精神面に関して健康な職場環境づくりを雇用主側に要請。変化を起こすことは容易ではないものの、労働者と組織の双方にとって同様に、「価値あることだ」と強調している。

従業員のメンタルヘルスのために必要な職場の構成要素として、医務総監は次の5つを挙げている。

・職場のコミュニティが形成されている
・ワークライフバランスが実現できる
・危害から守られている
・成長の機会が与えられている
・従業員が自らの重要性を実感できる

一方、アメリカ心理学会が行った調査の結果によると、精神的な健康に問題があることを示す症状を「一つでも経験したことがある」という人は、回答者のおよそ4人に3人となっており、2年前より17%増加している。

このように回答した人の84%は、少なくとも一つの症状について「職場環境が原因」だと回答。81%の人が、「メンタルヘルスの問題をよりサポートしてくれる新たな職場を探したい」と答えている。

米国の非営利団体Integrated Benefits Instituteの調査結果によると、従業員のケガや慢性疾患によって米国の企業が被る生産性の損失額は、年間およそ5750億ドル(約85兆5000億円)にのぼっていると推定される。

報告書の中で医務総監は、パンデミックは雇用者たちに、「働き方を見直す機会」を与えたと述べている。雇用主たちはリモートワークの日数を増やしたり、週休3日制を導入したりするなど、勤務体系や労働環境の大幅な変更を検討するようになっている。

forbes.com 原文

編集=木内涼子

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